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【転載】余命3年時事日記 2354 ら福井県弁護士会①(後半)

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死刑執行に抗議する会長声明
平成26年8月29日,東京拘置所及び仙台拘置支所において,2名に対する死刑の執行が行われた。これは同年6月26日,大阪拘置所において、1名に対して死刑が執行されたことに続く,谷垣禎一法務大臣(当時)による6度目の死刑執行である。
同大臣による死刑執行は合計で11名に至っており誠に遺憾と言わざるを得ない。
当会は,昨年度も,死刑執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開し,全社会的議論を踏まえた上で,その見直しを求めてきたものであり,これにも関わらず死刑執行が行われたことに,強く抗議するものである。
当会としても,平成24年,会内に死刑廃止プロジェクトチームを設置し,死刑に関する議論を広めるべく活動を開始し,平成25年7月には市民参加の下,「死刑を考える日2013」を開催するなど,死刑のない社会を目指した議論を重ねてきた。こうした取組みの中で,えん罪と死刑の関係など,現行の死刑制度に関する様々な問題点が指摘されたところである。
特にえん罪,すなわち誤判の恐れについては,本年3月27日,静岡地方裁判所が,袴田巖氏の第二次再審請求事件について再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する決定をしたところであり,誤判の危険が改めて明らかになったところである。
国際的に見ても,国連人権(自由権)規約委員会は,本年7月24日,日本政府に対し,死刑の廃止について十分に考慮することや,執行の事前告知,死刑確定者への処遇等をはじめとする制度の改善等を勧告している。死刑廃止が国際的にも大きな潮流であることは明らかである。
日本弁護士連合会においては,死刑のない社会が望ましいことを見据えて,平成23年10月7日,第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑廃止についての全社会的な議論を呼びかける宣言」を採択している。
裁判員制度において市民が死刑判決に関わらざるを得ず,困難な判断を迫られる状況の下で,死刑制度とその運用に関する情報の公開が進まずに公の議論が何ら行われないまま執行だけが繰り返されていることは,到底容認できない。
当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,死刑執行を停止することと死刑に関する情報を広く国民に公開することを要請し,死刑制度についての全社会的議論を踏まえたうえで,その抜本的な検討及び見直しを重ねて求めるものである。
2014年9月30日
福井弁護士会   会 長 内 上 和 博

集団的自衛権行使容認の閣議決定に強く抗議する会長声明
1 政府は,2014年7月1日,憲法第9条に関する従来の政府解釈を変更し,一定の要件の下に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。
当会は,2014年4月30日付け「集団的自衛権の行使容認に反対する会長 声明」において,集団的自衛権の行使容認は憲法第9条の文言からは導き得ない解釈であることを指摘し,政府がそのような解釈に基づいて権力を行使することは,憲法秩序の破壊であり,基本的人権を保障するため,憲法によって国家権力を制限するという近代立憲主義の否定であって,絶対に許されないことを強く主張した。にもかかわらず,政府が集団的自衛権行使容認に踏み切ったことは,実質的には憲法改正手続によらない第9条の変更で,違憲であり,当会は強くこれに抗議する。
2 今回の閣議決定では,解釈変更の理由について,日本を取り巻く安全保障環境の変化をあげ,「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,日本の存立が脅かされ,国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に,必要最小限度の実力を行使するのは自衛の措置として憲法上許容されると判断するに至った」と説明している。
しかしながら,憲法第9条が,国際紛争を解決する手段としての武力の行使を永久に放棄していることはその文言上明らかである。したがって,わが国に対する外部からの武力攻撃によって国民の生命や身体が危険にさらされている場合にこれを排除する個別的自衛権の行使は認められるとしても,わが国が直接攻撃されていないにもかかわらず外国に対する武力攻撃を実力をもって阻止する権利である集団的自衛権の行使を容認することは,明らかに憲法解釈の域を超えている。また,現在の安全保障環境が,冷戦時と比較しても,憲法第9条の改正を必要とする程度に悪化しているとの論拠も十分に示されていない。
3 よって,当会は政府に対し,集団的自衛権の行使を容認した今回の閣議決定に強く抗議し,これに基づく関連法令の整備を行わないことを求める。
2014年(平成26年)7月4日
福井弁護士会 会長 内 上 和 博

秘密保護法の採決強行に抗議し,同法の改廃を求める会長声明
1 2013年12月6日,参議院本会議において特定秘密保護法案の採決が強行され,同法が制定された。
当会は,再三にわたる意見書や会長声明の中で (※1),同法案が,国民の知る権利を侵害し,国民主権原理の根幹を脅かし,罪刑法定主義にも抵触し,秘密に関与する関係者のプライバシーを侵害するなど,日本国憲法の基本原理に照らして看過しがたい重大な欠陥をもつものであることを強く訴え,その廃案を求めてきた。日本弁護士連合会も,同様の立場から同法案に強く反対してきた。
当会や日本弁護士連合会のみならず,同法案の提出後,同法案に反対する世論は急速に高まり,報道,研究,映画界等様々な分野から廃案を求める意見が出され,また国際的にも強い危惧が表明されてきた。
2 こうした,重大な憲法上の欠陥をもつ法案が,各界から表明された強い反対や国民多数の廃案ないし慎重審議を求める声を無視して,国会への法案提出からわずか1か月半も経ぬごく短期間のうちに,衆参両議院での相次ぐ強行採決により成立に至ったことは,極めて異例であり,国会の存在意義すら疑わしめる暴挙というほかなく,当会はこれに強く抗議する。
国会審議中になされたいくつかの法案修正によっても,同法のもつ憲法上の欠陥は何ら解消されておらず,公布の日から1年以内に予定される同法の施行により,国民の基本的人権が侵害され,国民主権原理が形骸化し,行政に対する国会や裁判所によるチェック機能が弱まるなどの重大な弊害が生じることが,強く懸念される。
3 よって,当会は,重大な憲法上の欠陥をもつ同法について,その改廃を求めてひきつづき活動する決意である。
あわせて,国民主権原理の機能確保のために不可欠な情報公開制度・公文書管理制度の改正,特定秘密保護法の有無にかかわりなく整備されるべき情報管理の適正化のための制度策定に向け,全力を尽くすことを誓うものである。
2013年(平成25年)12月18日
福井弁護士会 会長 島 田   広
(※1)2012年7月25日付け「秘密保全法制定に反対する会長声明」,2013年9月17日付け「『特定秘密の保護に関する法律案の概要』に対する意見書」,同年11月5日付け「国民の知る権利を侵害する特定秘密保護法案の廃案を求める会長声明」及び同月27日付「特定秘密保護法案の国際原則に照らした徹底審議と廃案を求める会長声明」

行政書士法改正に反対する会長声明
1 日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立,再審査請求等行政庁に対する不服申立について代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求めてそのための運動を推進しており,日本行政書士政治連盟によれば,法案を「何時でも国会に提案できる」状況にあるとされている(同連盟ホームページ会長挨拶)。早ければ次期通常国会にも,前記業務を行政書士の業務範囲とする行政書士法改正案が,議員立法として提出される可能性がある。
しかし,行政書士法改正により行政書士に行政不服申立等の代理業務を認めることには,以下の問題点がある。
2 第1に,そもそも,行政書士の主たる職務は,行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として,行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出するというものである。一方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度である。したがって,行政書士がこれまで従事してきた業務の性質及びそこで培われた能力と,国民と行政が鋭く対立する行政不服申立手続における代理人の役割及び求められる能力とが,相当に性質を異にするものであることは明らかであり,行政との対立関係に身を置く経験の乏しい行政書士が,行政不服申立の代理人となることにより,国民の権利利益が損なわれることが強く懸念される。
3 第2に,行政書士試験に行政不服審査法が必須科目になっていることが,行政書士の行政不服申立の代理人としての能力を担保すると主張されているが,誤りである。行政不服申立の代理行為は,その後の行政訴訟の提起も十二分に視野に入れて行うべきものであり,訴訟実務に通暁しない行政書士が,行政不服審査法の知識を有しているからといって,能力が担保されたということは到底できない。これでは,行政機関による人権侵害から国民の権利利益を守ることはできない。
4 第3に,行政不服申立等は,国民と行政庁とが鋭く対立するものであるが,行政庁の懲戒権に服し(行政書士に対する懲戒処分並びに行政書士会に対する監督は都道府県知事が行い,日本行政書士連合会に対する監督は総務大臣が行うものとされている。),当事者の利害対立を前提に資格が構築されていない行政書士が代理行為を行うことにより,国民の権利利益が損なわれることが強く懸念される。
5 第4に,職業倫理の面においても,行政書士会は紛争事件を取り扱うに足る職業倫理規定をもたず,行政書士は紛争事件を取り扱うに足る職業倫理について十分な訓練を受けているとはいえない。すなわち,日本行政書士会連合会が定める行政書士倫理綱領は,「使命に徹し,名誉を守り,国民の信頼に応える」「法令会則を守り,業務に精通し,公正に職務を行う」「相互の融和をはかり,信義に反してはならない」等のごく一般的な内容に過ぎず,その他の行政書士倫理の規定をみても,利益相反等に関する規定等の当事者の利害が鋭く対立する紛争事件を取り扱うことを前提とする規定はなく,この点で利益相反等の職務を行い得ない事件について具体的規定を有する弁護士倫理とは大きく異なっている。これでは,紛争当事者となった国民の権利利益が損なわれるおそれがある。
6 第5に,行政書士に行政不服申立等の代理人にしなければ代理人が不足するものではなく,立法事実を欠く。弁護士は,これまでも,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。そして,2013年7月1日現在,弁護士数は3万3628人であり,さらに今後も増加している現状からすれば,行政不服申立等の代理人は十分供給されているといってよい。
よって,当会は,行政書士が行政不服申立等の代理人になることについて,強く反対するものである。
2013年(平成25年)12月11日
福井弁護士会 会長 島 田   広

生活保護法改正案の廃案と国民の生活保護受給権の実効的保障を求める会長声明
1 政府は,本年10月15日,「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下「新改正案」という。)を閣議決定し,本年11月13日には同法案が参議院で可決され,現在衆議院において審議中である。
2 当会は,本年6月12日,先の通常国会で審議されていた「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下「旧改正案」という。)について,「生活保護法改正案の廃案を求める会長声明」を公表し,①違法な「水際作戦」を合法化し,②保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼすという看過しがたい重大な問題があることから,その廃案を求めた。旧改正案については,批判の高まりの中,与野党協議により一部修正されたものが衆議院で可決されたが,国会の閉会に伴い廃案となった。
3 新改正案は,与野党の修正協議を踏まえ,申請の際に申請書及び添付書類の提出を求める24条について,1項の「保護の開始の申請は…申請書を…提出してしなければならない」との文言を「保護の開始を申請する者は…申請書を…提出しなければならない」との文言に変更し,また,同条1項及び2項に,いずれも,「特別の事情があるときは,この限りでない」とのただし書を加え,申請の意思表示と申請書等の提出を概念的に切り離す形に変更されている。これに対し,扶養義務者への通知及び調査に関する改正案24条8項,28条及び29条については,一切の修正がなされていない。
4 先の通常国会審議における政府答弁等によれば,まず,改正案24条については,従前の運用を変更するものではなく,申請書及び添付書類の提出は従来どおり申請の要件ではないこと,福祉事務所等が申請書を交付しない場合も,ただし書の「特別の事情」に該当すること,給与明細等の添付書類は可能な範囲で提出すればよく,紛失等で添付できない場合も,ただし書の「特別の事情」に該当すること等を,法文上も明確にする趣旨で原案を修正したとされている。
しかしながら,法文の形式的な文言のみからは,修正の趣旨がなお不明確であり,また,従前の運用を変更しないのであればそもそも法文の新設は不要なはずであるから,このままの規定であれば,法文が一人歩きし,申請を要式行為化し厳格化したものであると誤解され,違法な「水際作戦」をこれまで以上に,助長,誘発する可能性が極めて大きい。
5 また,改正案24条8項,28条及び29条については,前記政府答弁において,明らかに扶養が可能な極めて限定的な場合に限る趣旨であると説明されている。しかし,かかる規定の新設により,保護開始申請を行おうとする要保護者が,扶養義務者への通知等により生じる親族間のあつれきやスティグマ(世間から押しつけられた恥や負い目の烙印)を恐れて申請を断念するという萎縮効果を一層強め,申請権を形骸化させることは明らかであり,到底容認できない。前回の会長声明でも指摘したとおり,国連社会権規約委員会が本年5月17日に公表した「日本の第3回定期報告書に関する総括所見」においては,生活保護手続きの簡素化や申請に伴うスティグマの解消のための教育の実施等が勧告されていたのであり,いまわが国に求められているのは,この勧告の趣旨に沿って生活保護を利用しやすくするための制度の改善である。
6 これも前回の会長声明でも指摘したとおり,わが国の生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割程度とされており,他の先進諸国に比べて異常に低い。
われわれ弁護士は,本来生活保護を受けるべき人が生活保護を受けられず,きわめて困難な生活状況に追いやられている状況にしばしば遭遇し,その度に,日本国憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障すべき国の義務が果たされていないことに,強い憤りを感じてきた。だからこそ,違法な「水際作戦」を助長,誘発するおそれが高く,生活保護申請のスティグマを解消するどころかむしろ強めるような,今回の新改正案を,断じて容認できない。
よって,当会は,改めて新改正案の廃案を求めるとともに,国に対して,国連社会権規約委員会の勧告にしたがって国民の生活保護受給権の実効的保障を行うよう強く求める。また,当会としても,今後,不当な「水際作戦」等によって生活保護申請が排除されることのないよう,生活保護の申請支援によりいっそう強く取り組むことを誓うものである。
2013年(平成25年)11月29日
福井弁護士会 会長 島 田   広

通信傍受の安易な拡大と会話傍受の導入に反対する会長声明
1 法制審議会新時代の刑事司法制度特別分科会では,取調や供述調書に過度に依存した捜査や裁判のあり方の見直しや,取調の可視化(取調の録音・録画)等について検討を行ってきたが,2013年1月29日には「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」をとりまとめ,その後も検討を重ねて,早ければ年度内にも結論をとりまとめる予定とされ,その後,法案化がなされることが見込まれる。
2 上記「基本構想」及び同分科会での最近の検討状況によれば,「通信傍受の合理化・効率化」として,現在,薬物関連犯罪,銃器関連犯罪や組織的な殺人等の重大な犯罪に限定されている通信傍受の対象犯罪を,通常の殺人,逮捕・監禁等,窃盗・強盗等,さらには「その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」にまで広げることが検討されている。
また,同分科会では,これまで認められていなかった「会話傍受」の導入が検討されており,「①振り込め詐欺の拠点となっている事務所等」「②対立抗争等の場合における暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両」「③コントロールド・デリバリーが実施される場合における配送物」を対象に,捜査機関が傍受機器を設置し、犯罪の実行に関連した会話等を傍受することができるようにすることが検討されている。
3 しかしながら,通信傍受は,憲法が保障する通信の秘密を侵害し,ひいては,個人のプライバシーを侵害する捜査手法である。それゆえ,通信傍受が憲法上許容されるのは,「重大な犯罪」について,捜査上「真にやむを得ない」と認められる場合に限られると解すべきである(最高裁判所平成11年12月16日決定参照)。このことを踏まえると,通信傍受の対象犯罪は限定的・謙抑的であるべきであり,通信傍受法施行以降の運用状況についても,慎重な検討が加えられなければならない。専ら捜査上の有用性の観点から,安易に通信傍受の対象犯罪を拡大することは,許されないというべきである。ましてや,対象犯罪について,現行の通信傍受法では厳格な限定列挙がなされにもかかわらず,「その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」などという,およそ限定の効果をもたない規定を法案に盛り込むことは,断じて許されない。
4 また,捜査機関が住居や車両に傍受機器を設置し,会話等を傍受する会話傍受は,通信事業者の立ち会いの下で行われ,必要に応じて傍受の中断や終了が容易にできる通信傍受と異なり,ひとたび傍受機器が設置されるといつでも傍受できる状態が長期にわたり継続することになるし,密室で行われるため,内容的にも時間的にも無制約に傍受がなされるおそれがあり,犯罪と無関係な個人の会話等を傍受される危険性も高い。このように,会話傍受は,捜査機関による権限濫用のおそれも大きく,通信傍受以上に個人のプライバシーを侵害する危険性の高い捜査手法である。
しかも,現在検討されている前記①?③の対象についても,①は,振り込め詐欺の拠点が特定されていながら,なお会話傍受までなされなければ捜査に重大な支障が生じるとは考えがたいし,②は,会話傍受が導入されれば,暴力団関係者は,犯罪に関連する会話は暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両以外でするようになることが容易に予想されるし,③も,会話傍受が導入されれば,配送物を受け取った関係者は中身を確認するまでは会話をしなくなると思われ,いずれも会話傍受導入の必要性・有効性に重大な疑問がある。
したがって,会話傍受は,プライバシー侵害の危険性の大きさに照らすと,それでもなお捜査手法として認める必要性があるとは到底認められず,導入することは許されない。
5 1986年に発覚した神奈川県警察による政党幹部宅盗聴事件の経験からも明らかなように,捜査機関が違法な盗聴に及ぶ危険は常に存在し,しかも,そのことはしばしば容易に隠蔽される。最近では,米国国家安全保障局(NSA)による盗聴が組織的かつ長期にわたり実施されていたことが,元職員からの告発により明らかになったが,この事件も,権力がいかに盗聴を濫用しやすいかを,改めて世に示したといえる。同分科会では,通信傍受の対象犯罪の拡大について「テロ関連犯罪」等にも拡大することが検討されているが,折しも,現在国会では秘密保護法が審議中であり,同法が仮に成立すれば,「テロ関連犯罪」に関する捜査情報は秘密指定され,秘密の陰に隠れて違法又は不当な捜査が横行するおそれすら,否定できない。このことを考慮すれば,捜査機関の通信傍受権限を拡大し,さらには,会話傍受というより強力で国民のプライバシー侵害のおそれが大きい捜査手段を捜査機関に与えることには,きわめて慎重であるべきである。
以上の理由から,当会は,通信傍受の安易な拡大と会話傍受の導入に,強く反対する。
2013年(平成25年)11月27日
福井弁護士会 会長 島 田   広

憲法第96条の発議要件緩和に反対する会長声明
憲法第96条は憲法改正発議要件として衆参各議院の総議員の3分の2以上の特別多数の賛成を要すると定めている。近時,この定めを過半数に緩和する旨の主張が複数の政党からなされている。 しかし,このような改正発議要件の緩和は,以下に述べるとおり,立憲主義を著しく軽視し,多数決によっても侵しえない基本的人権の保障を危うくしかねないものであるから,当会はこれに強く反対する。
憲法は,国家権力から基本的人権を守るために定められたものである。そして,たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても,権力が濫用されて,基本的人権が損なわれるおそれは否定できないため,憲法は,多数決によっても基本的人権が損なわれないよう,国家権力に縛りをかけている。この考え方が立憲主義であり,具体的には,憲法の最高法規性(憲法第98条),基本的人権の永久・不可侵性(憲法第97条),最高裁判所の違憲立法審査権(憲法第81条)などに現れている。
憲法第96条も,しばしば多数決によって基本的人権が踏みにじられた歴史に鑑み,その時々の多数派によって十分な議論なく基本的人権が損なわれることのないよう,改正手続に厳格な要件を設けたものであり,憲法の最高法規性と立憲主義を支えるものである。すなわち,発議要件を両院の3分の2とした趣旨は、国民に対して発議するにあたっては,改正によって基本的人権が侵害されることのないよう,議会での熟議を尽くして大多数の議員の一致を形成することを求める点にある。にもかかわらず国会の発議を容易にすることは、憲法の安定性を損ない、時の多数派による人権侵害の危険を増大させるばかりか、熟議を通じた十分な情報を与えられないまま国民に判断を押し付けるものであるから、憲法選択という重大な局面における国民の知る権利をも奪うものである。
また、諸外国を見ても、成文憲法の改正には、日本と同様の規定を有する韓国、ルーマニア、アルバニア等の国もあるし、さらに厳しい要件の国もあり(アメリカ合衆国、フィリピン等)、第96条の改正要件が硬性憲法として特別に厳しいものであるとは言えず、比較法的見地からしても、改正要件緩和を正当化する理由は見当たらない。弁護士法第1条により、弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。当会は、弁護士法第1条に基づき、憲法改正手続の発議要件の緩和に対し、立憲主義憲法を破壊し人権を損なうものとして、反対であることを表明する。
2013年(平成25年)10月31日
福井弁護士会会長 島 田  広

「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明
政府は,本年5月17日,生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。改正案は,一部修正が加えられた上で,本年6月4日,衆議院本会議において可決され,現在,参議院で審議中である。
改正案は,①生活保護の申請意思を表明した者の申請を認めずに追い返すという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)を合法化する,②保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす,との2点において,看過しがたい重大な問題がある。
まず,改正案第24条1項は,保護の申請者は,資産及び収入の状況等の事項を記載した申請書を提出しなければならないとし,同条2項は,申請書には保護の要否等の決定に必要な厚生労働省令で定める書類を添付しなければならないとしている。
この点,現行生活保護法は,保護の申請を書面による要式行為とせず,かつ,保護の要否判定に必要な書類の添付を申請の要件としていない。確立した裁判例も,口頭による保護の申請を認めている。しかし,実際には,全国の生活保護の窓口において,保護の申請意思を表明した者に対して申請書を交付しなかったり,保護の要否判定に必要な書類を添付していないとして申請不受理としたりする違法な運用が見受けられる。改正案の内容は,このような違法な運用を追認し合法化するものである。
改正案には,衆議院での審議により,「特別の事情があるとき」は申請書の提出や書類の添付を要件としないこととする修正が加えられたが,そもそも,原則として書面添付を申請の要件とすること自体が不当である。いかなる場合が「特別な事情」に当たるかは行政の判断に委ねざるを得ず,かかる修正により保護の申請権の行使が大幅に制限されるおそれが払拭されたとは,到底いえない。
次に,改正案第24条8項は,保護の実施機関に対し,保護の開始の決定をしようとするときは,原則として,あらかじめ要保護者の扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。また,改正案第28条2項は,保護の実施機関が,保護の決定等のため必要があると認めるときは,要保護者の扶養義務者等に対して,報告を求めることができるとしている。さらに,改正案第29条1項は,保護の実施機関等は,過去に生活保護を受けていた者の扶養義務者に関してまで,官公署等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提供を求めたり,銀行,信託会社,雇主等に対し報告を求めたりすることができるとしている。
この点,現行法は,扶養義務者の扶養は保護の要件とせず,単に優先関係にあるものとして(現行法4条2項),現に扶養(仕送り等)がなされた場合に収入認定をして,その分保護費を減額するに止めている。しかし,実務においては,あたかも親族の扶養が保護の要件であるかのごとき運用が行われている。そのため,要保護者が,扶養義務者への通知によって生じうる親族間のあつれき等をおそれ,保護の申請を断念することも少なくないのが実情である。
改正案によって,扶養義務者に対する通知が義務化され,保護の実施機関等の調査権限が強化されることになると,要保護者の保護申請に対し,一層の萎縮的効果を及ぼすことは明らかである。
全国的にも,そして福井県においても,生活保護を受けている世帯人員数は増加の一途をたどっている。今回の改正は,増え続ける保護費を抑制する狙いであることは明らかである。しかし,保護費の増大は我が国の総合的なセイフティーネットが脆弱であることに由来するのであって,かかる状況下において保護費の削減のための法改正を拙速に進めるべきではない。
そもそも我が国の生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割程度に過ぎず,先進国中で異常に低い状況である。仮に今回の改正案が成立し施行されることとなれば,要保護者の生活保護の申請が一層抑制され,生活保護の捕捉率がさらに低下し,自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがある。
国連社会権規約委員会は,本年5月17日に公表した「日本の第3回定期報告書に関する総括所見」において,「委員会は,…生活保護の申請手続を簡素化し,かつ申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置をとるよう,締約国に対して求める。委員会はまた,生活保護につきまとうスティグマ(恥の烙印)を解消する目的で,締約国が住民の教育を行なうよう勧告する。」との勧告を行った。
いまわが国に求められているのは,この勧告にしたがって生活保護をより利用しやすくするよう制度の運用を改善することである。しかるに,今回の改正案は,これとは正反対の,現行法上では違法な運用を合法化しようとするものであって,社会権規約の誠実な執行という,わが国の国際法上の重要な義務の履行の観点からも重大な問題がある。
当会は,2012年11月29日,予算編成過程における生活保護基準の引き下げに反対する総会決議をするなど,実質的な生存権保障のために力を尽くしてきたが,改正案は,生存権保障をないがしろにするものであり,到底容認できない。
よって,当会は,改正案の廃案を強く求めるものである。
2013年(平成25年)6月12日
福 井 弁 護 士 会 会 長  島 田 広

秘密保全法制定に反対する会長声明
「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」は,2011年8月8日,秘密保全法制を早急に整備すべきである旨の「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を発表した。その上で,政府における情報保全に関する検討委員会は,2011年10月7日,次期通常国会への提出に向けて法案化作業を進めることを決定した。政府は今年の3月,いったん通常国会への提出を見送ったものの,法案制定そのものを断念したわけではなく,早ければ次期臨時国会にも提出されるおそれがある。
当該秘密保全法制については,以下に述べるように,国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど,憲法上の諸原理と正面から衝突するものであり,国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を早急に進めることは,民主主義国家の政府の態度として極めて問題である。
当該秘密保全法制検討のきっかけとなった尖閣諸島沖中国船追突映像流出は国家秘密の流出というべき事案とは到底言えないものであり,立法を必要とする理由を欠くと言わざるを得ない。仮に,秘密とされるべきものがあるとしても,秘密保全のために新たな法制を設ける必要性はなく,国家公務員法等の現行法制でも十分に対応できるものであり,新たな法制化の必要性が何ら示されてはいない。
当該秘密保全法制では,規制の鍵となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ広範であり,かつ,何を特別秘密とするかを決めるのが各行政機関に委ねられており,本来国民が知るべき情報が国民の目から隠されてしまう懸念が極めて大きい。また,罰則規定に,このような曖昧な概念が用いられることは,処罰範囲を不明確かつ広範にするものであり,罪刑法定主義等の憲法上の権利と矛盾抵触するおそれがある。
禁止行為として,漏洩行為の独立教唆,扇動行為,共謀行為や,「特定取得行為」と称する秘密探知行為についても独立教唆,扇動行為,共謀行為を処罰しようとしており,単純な取材行為すら処罰対象となりかねず,そこでの禁止行為は曖昧かつ広範であり,この点からも罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾するものである。現実の場面を考えても,取材及び報道に対する萎縮効果が極めて大きく,国の行政機関,独立行政法人,地方公共団体,一定の場合の民間事業者・大学に対して取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由が侵害されることとなる。
また,大学などの独立行政法人を秘密保全法制の適用対象とすることは,学問・研究活動を国家秘密の対象とするものであり,学問,研究活動の自由を侵害するものである。特に本県との関係では,これまで原子力に関する情報が十分市民に公開されてこなかったことが原子力発電所に関する様々な事故の一因になってきたと考えられるところ,独立行政法人が秘密保全法制の適用対象とされることによって,原子力に関する研究を行う独立行政法人の情報を入手することが更に困難となるおそれがある。
報告書では特別秘密を取り扱う者自体の管理に関して,人的管理の必要性を詳細に論じているが,情報システムの管理に対する無関心やルーズさにこそ問題があることを自覚し,見直すべきであって,人的管理の対象者及びその周辺の人々のプライバシ-を空洞化させるような方向は本末転倒である。人的管理に偏することなく,むしろ作成・取得から廃棄・移管までの各段階において,情報システムの管理の徹底など個別具体的な保全措置を講ずる物的管理と組み合わせることにより対応すべきである。さらにいえば,当該秘密保全法制に関わり起訴された者の裁判手続は,憲法に定められた基本的人権である公開の法廷で裁判を受ける権利や弁護を受ける権利を侵害するおそれがある。
以上の理由から,当会は,当該秘密保全法の制定には反対であり,法案が国会に提出されないよう強く求めるものである。
2012年(平成24年)7月25日
福井弁護士会 会長 和 田  晋 一

全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明
当会は,国に対し,国選付添人制度の対象事件を,観護措置決定により少年鑑別所に送致された少年の事件全件にまで拡大するよう,速やかに少年法を改正するよう求める。

1 弁護士は、少年審判手続きにおいて,「付添人」という立場で,事実認定や処分が適正に行われるよう、少年の立場から関与している。
少年は,精神的に未熟であることから取調官に迎合しやすいため,成人より冤罪発生の危険が大きく,適正手続きの観点から弁護士付添人の援助が必要である。
また,少年審判を受ける少年の多くは、生育歴、家庭環境に大きな問題を抱え、信頼できる大人に出会えないまま非行に至っている。とりわけ,少年鑑別所に身体拘束された少年は、大きな問題を抱えている。弁護士付添人は,そのような少年を受容しつつ反省を促し,家庭,学校,職場などに働きかけ少年を取り巻く環境を調整し,少年の更生を手助けする存在として必要である。
弁護士付添人のこうした活動は,再非行の減少につながり,社会的にも意義のあるものである。
2 ところが、2008年における弁護士付添人選任率は,少年鑑別所に身体拘束された少年の約40%に止まっている。成人の刑事裁判では約98%の被告人に弁護人が選任されていることに比べれば、少年に対する法的援助は著しく不十分であると言わざるを得ない。
この原因は,少年に国選付添人が選任される場合が極めて限定されていることにある。すなわち,成人の刑事裁判ではほぼ全ての事件について国選弁護人が選任されるのに対して,少年審判手続で国選付添人が選任されるのは,①殺人や強盗などの重大事件について裁判所の裁量で選任される場合,②被害者傍聴の申し出がなされた場合,③検察官関与決定がなされた場合に限定されているのである。2008年における国選付添人選任率は,少年鑑別所に身体拘束された少年の約4%にすぎない。
また、成人の場合は起訴前・起訴後を通じて国費により弁護人の援助を受ける機会が与えられているのに対し、少年の場合には、被疑者段階においては,被疑者国選弁護制度により弁護士の支援を受けることができるが,家庭裁判所送致後は,極めて限定的な場合にしか国選付添人が付されないという制度に止まっていることから、多くの少年に弁護士付添人が付かないまま審判を受けるという事態が生じている。少年に対する法的援助に対する保障が,成人よりも不十分であるというのは不均衡である。
3 このような状況の下、日本弁護士連合会は,付添人の必要性を自覚し、全ての会員から特別会費を徴収して少年・刑事財政基金を設置し、弁護士費用を賄えない少年に私選付添人の費用を援助する少年保護事件付添援助制度を実施してきた。
また、当会では、2008年5月から、観護措置決定により身体拘束を受けた少年の要望があれば、弁護士が無料で少年と面会して助言を行う当番付添人制度を実施し,当会会員は,これを契機として積極的に少年保護事件付添援助制度を利用し、私選付添人となって精力的・献身的に活動している。
しかし、審判手続きにおける適正手続きを保障し,更生を支援するという法的援助を与えることは,本来国の責務である。我が国が批准した子どもの権利条約37条(d)が「自由を奪われたすべての児童は、・・・弁護人(及び)その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有する」と規定しているところである。法的援助を必要とする少年に対し、国費で付添人を付けることができる権利を保障すべきである。弁護士会の財政的負担によって支えられている少年保護事件付添援助制度に頼るべきではない。
4 よって、当会は、政府に対し、国選付添人制度の対象事件を観護措置決定により少年鑑別所に身体拘束された少年の事件全件にまで拡大する少年法改正を速やかに行うよう求めるものである。
2010(平成22)年 5月31日
福 井 弁 護 士 会  会長 井  上  毅

家族法の差別的規定改正の早期実現を求める会長声明
選択的夫婦別姓や婚外子の相続分差別撤廃を内容とする民法,戸籍法等の法改正は,14年前の法制審答申以来,現在に至るも実現していない。法務省は本年2月19日に民法改正案の概要を政府与党の議員に示したとされるが,その後立法化に向けた進展が見られない。
女性の多くが,現実には婚姻後の夫婦の姓の変更を余儀なくされ,職業上も生活上も様々な不利益を被っている。また,通称使用等の方法により社会生活上夫婦が別姓を使用している家庭も少なからず存在するが,法的根拠がないために周囲の理解を得られにくい状況にある。
夫婦別姓について,同制度導入が家族の崩壊につながるとして反対する意見もあるが,夫婦別姓と家族関係の悪化を結びつける実証的根拠は存在しないし,現在議論されているのは選択的夫婦別姓であって国民全体に夫婦別姓を強制するものではない点でも,説得力に欠ける。逆に,先進国では婚姻後の夫婦の同姓を強制しているのは日本のみである。自己のアイデンティティとして婚姻前の氏を使い続けるというライフスタイルの選択は,憲法に照らし,十分に尊重されなければならない。
2009年9月以降に複数の新聞社により実施された調査ではいずれも,選択的夫婦別姓の導入に賛成の者の数は反対の者の数を上回った。夫婦別姓についての国民的理解も進んでおり,制度導入の障害はないといえる。
また,婚外子の相続分差別の撤廃も国際社会の趨勢である。婚外子の相続分差別は,子自身の意思や努力によっていかんともし難い事実をもって差別をするものであり,憲法13条,14条及び24条2項に反することは明らかである。最高裁においても,相続分差別を撤廃すべきであるという意見が何度も述べられている。
さらに,女性にのみに課される再婚禁止期間についても,子の父が誰であるかを確定する困難を避けることがその立法趣旨とされているが,科学技術の発達により父の確定に伴う困難は大きく減り,男女間に差を設けるべき根拠は既に失われている。婚姻年齢の統一も,今や憲法14条から当然に要請されることである。
1993年以来,国連の各種委員会は日本政府に,家族法改正を勧告し続けてきた。とりわけ2009年女性差別撤廃委員会は,家族法改正を最優先課題として指摘し,2年以内の書面による詳細な報告を求め,再度早期改正を行うよう厳しく勧告している。
当会は,今国会において,選択的夫婦別姓の導入をはじめ,家族法の差別的規定の改正が速やかに実現されることを強く求める。
2010年(平成22年)3月29日
福井弁護士会 会長  黛   千 恵 子

取調べの可視化(全過程の録画)の早期実現を求める会長声明
2009(平成21)年5月,裁判員制度がスタートし,市民に開かれた刑事裁判という刑事司法の大きな変革が行われた。しかし,被疑者に対する取調べについては,依然として,警察官・検察官により,取調室という密室において行われ続けており,冤罪を生む危険性は変わらないままである。
近年判明した冤罪事件としては,鹿児島県の選挙違反事件(志布志事件)や,虚偽の自白がなされ,有罪判決を受けるに至った富山県の強姦事件(氷見事件)などが挙げられる。これらは,無実の人間が,いずれも取調室という密室において,警察官あるいは検察官により,虚偽の自白を強要され,耐えきれずに虚偽の自白をしたことにより,起訴され長期間身体拘束を受けた事件であり,氷見事件では,有罪判決が確定し,刑務所で服役までさせられることになった。また,2009(平成21)年6月,1990(平成2)年に栃木県足利市で発生した幼女誘拐殺人事件(足利事件)の再審開始が決定され,現在,再審公判が続けられており,さらに同年12月には,1967(昭和42)年茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件(布川事件)について,最高裁の決定により再審が開始されることが決まったが,これらの事件においても,取調室という密室における取調べにおいて,虚偽の自白を強要され,虚偽の自白がなされるに至り,虚偽の自白が聴取された供述調書が公判において重要な証拠とされ,無期懲役の有罪判決がなされ,長期間の服役を余儀なくされた。
ところで,現在,検察庁・警察は,裁判員裁判対象事件についてのみ,その取調べの一部を録画しているが,取調べの一部を録画したとしても,何ら冤罪の防止にはならないばかりか,冤罪を生み出す危険性すらある。
先に述べた足利事件,布川事件においても,捜査機関が取調べの一部を録音しているが,それらの録音テープは,被疑者が自らの無実を訴えて否認していたものの,取調べに耐えられず自白するに至ってしまった後に,改めてその自白を録音したものであった。そして,布川事件において,裁判所は,それらの録音テープを根拠に,自白が任意になされたものと判断し,自白を有力な証拠として,有罪判決を言い渡した。検察庁・警察において現在行われている取調べの一部録画も,正に被疑者による自白がなされた後,自白の調書が作成され,その内容を確認する部分を録画するものとなっており,取調べの一部を記録したとしても,何ら冤罪の防止とならず、冤罪を生み出す危険性があることは,既に上記の冤罪事件が証明している。
真に冤罪を防止するためには,どういう取調べがなされたのか,どういうやりとりがあって自白がなされたのかを後に確認できる状況にしておくことこそが重要である。そして,そのためには,取調べの全過程を録画すること以外に方法はない。
刑事裁判において最も避けられなければならないことは無実の人を罪に問わないことにある。冤罪を防止するためにも,一刻も早く,取調べの全過程を録画するようにしていかなければならない。
当会は,国会に対して,取調べの全過程の録画を義務づけることの立法化を早急に行うよう求めるものである。
2010(平成22)年1月29日
福井弁護士会 会長 黛  千 恵 子

葛飾ビラ配布事件最高裁判決に関する会長声明
2009(平成21)年12月24日
福井弁護士会 会長 黛 千 恵 子
最高裁判所第二小法廷は、本年11月30日、マンション各戸のドアポストへの政党の政治的意見を記載したビラ等の投函が住居侵入罪に該当するとした東京高等裁判所判決に対する上告を棄却する判決(以下、本判決という)を言い渡した。
本判決は、「表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず」としたものの、「たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,そこに本件管理組合の意思に反して立ち入ることは,本件管理組合の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。」などとして、「本件立入り行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。」とした。
憲法21条1項が保障する表現の自由は、人間の本質的な属性である精神活動を充足するものであるというにとどまらず、民主主義社会が国民の自由な討論と民主的な合意形成によって成立するという意味で、その基盤を構成する重要な権利である。また、本件のようなビラ配布は、経済力に乏しく発言の場を容易に持てない市民が利用可能な数少ない表現手段である。
そうすると、本件のビラ等の投函は、憲法が保障する基本的人権の中でも、いわゆる優越的地位が認められる重要な権利であるから、裁判所は、「憲法の番人」として、表現の自由に対する規制が必要最小限度であるかにつき、厳格に審査しなければならない。このことは、憲法解釈上自明であり、日本弁護士連合会も、本年11月6日に開催した人権擁護大会において「表現の自由を確立する宣言」として採択し確認しているところである。
しかるに、本判決は、前記のとおり、表現の自由とこれと衝突する権利である管理組合の管理権及びマンション住民の私生活の平穏とを並列的に論じ、後者が具体的に侵害されたかを十分に検討することなく結論を導いた。表現の自由が前記の性質を持つ重要な権利であることに鑑みれば、管理組合の管理権に対しては優越的な地位を有するのであるから、その点を含めた慎重な検討が必要であるし、私生活の平穏に対する侵害を問題にするのであれば、その侵害の程度が、表現の自由の権利としての重要性を前提にしながら、さらに受忍限度を超えたと言えるか否かを含めて具体的かつ慎重な検討が必要だと考えられるが、そういった厳格な審査を行ったとは考えにくい。
また、刑事処罰は人権制約の度合いが極めて大きいことから、刑罰権の行使には謙抑性が求められるところ、民事上においてすら、本件のような事案で住民の被告人に対する損害賠償請求が容易に認められるとは考え難く、本判決には上記の謙抑性の観点からも疑問が生じる。
国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月、「政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に懸念を有する」旨の表明をし、日本政府に対し、「表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである」旨勧告した。本判決は、本件逮捕・起訴が国際的に批判される中で、敢えてこれを是認したもので、その問題性は、極めて大きい。複数の新聞報道がその社説等において、本判決が表現活動に対して萎縮的効果をもたらすことを危惧しているが、正鵠を得たものといえよう。
よって、当会は、裁判所に対し、今後ビラ配布を含む表現の自由の重要性に十分配慮し、国際的な批判にも耐えうる厳密な利益衡量に基づく判断を示すよう強く要望する次第である。

死刑執行に関する会長声明
本年4月10日、東京拘置所及び大阪拘置所において2名ずつ、計4名の死刑確定者に対して死刑が執行された。昨年は4月、8月、12月に各3名の死刑確定者に対して死刑が執行され、本年に入っても,本年2月1日に3名の死刑確定者に対して死刑が執行されたばかりである。当会は,本年2月13日に会長声明を発し,死刑制度の存廃について国民的な議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう要請したが,今回,そのわずか2ヶ月ほどの後に死刑が執行されたものであって、誠に遺憾である。
我が国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが、このような誤判を生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善が図られておらず、誤った死刑の危険性は依然存在する。また、死刑と無期刑の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が相次いで出され、死刑についての明確な基準が存在しないことも明らかとなっている。
また,我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態に置かれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願をはじめとする権利行使の大きな妨げとなってきた。昨年、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されるに至り、同法による実務の改善が期待されていたものの、いまだに死刑確定者と再審弁護人との面会に立会いが付されるなど、その権利行使が十全に保障されてきたとは言いがたく、このような状況で直ちに死刑が執行されることには問題がある。
他方,死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会で採択され(1991年発効)、1997年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。このような状況の下で、死刑廃止国は着実に増加し、1990年当時の死刑存置国96か国、死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)に対し、2007年12月24日現在、死刑存置国62か国、死刑廃止国135か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
また、昨年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された上で、死刑の執行を速やかに停止するべきことなどが勧告された。
さらに、昨年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択された。また、上記決議の採択に先立ち、昨年12月7日の我が国における死刑執行に対しては、国連人権高等弁務官から強い遺憾の意が表明されるという異例の事態が生じた。
今、我が国に求められているのは、上記勧告や決議案にどう応えるかも含めて、開かれた継続的な議論を行うことであり、死刑の執行を急ぐことではない。今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重せず、国際社会の要請には一切耳を傾けないことを改めて宣言する行為に等しい。
日本弁護士連合会は、2002年11月に発表した「死刑制度問題に関する提言」及び2004年10月に採択された「死刑執行停止法の制定、死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議」において、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱してきた。また、同連合会は,上記提言及び決議を踏まえ、本年3月13日の理事会において、「死刑制度調査会の設置及び死刑執行の停止に関する法律(案)」(通称「日弁連死刑執行停止法案」)を承認し、引き続き死刑問題に関する取組を続けている。
当会は,改めて政府に対し、被執行者の氏名だけではなく、死刑制度全般に関する情報を更に広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、重ねて強く要請するものである。
2008年(平成20年)6月 11日
福井弁護士会 会長 朝日宏明

「憲法改正国民投票法案」の慎重審議を求める声明
「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」(いわゆる「国民投票法案」)は、4月13日、衆議院本会議で可決され、参議院で審議されている。
憲法改正国民投票は、主権者である国民が、国の最高法規である憲法のあり方について主権者としての意見を表明するものであるから、それにふさわしいものでなければならない。しかし、現在参議院で審議されている与党の「国民投票法案」は、修正されたとはいえ、未だ多くの問題を抱えたままである。
第1に、改正案の発議は、「内容において関連する事項ごと」に区分して行うとされているが、基準が曖昧であり、発議の仕方によっては国民の意思が正確に反映されない危険を有している。国民の意思を尊重するという憲法の趣旨からすれば、むしろ、条文ごとの個別投票が原則とされるべきである。
第2に、憲法改正の発議から国民投票までの期間を60日以後180日以内としており、最短60日で国民投票が行われることになる。しかし、国民投票は、憲法改正という国政の基本に関わる重大な問題について主権者の意思を問うものであるところ、国民が十分に情報の提供を受け、これを理解し、さらに意見交換する機会が保障されなければならない。そのような観点からすると、法案の定める期間は、余りに短すぎると言わざるを得ない。
第3に、公務員及び教育者の「影響力」を利用した国民投票運動を広く禁止しているが、このような曖昧な基準は表現行為に萎縮効果をもたらしかねない。
第4に、メディアにおける有料広告に対する規制のあり方については、財力のない一般市民が意見を表明する権利を実質的に損ねるおそれがあるという重大な問題が存することが否定できず、十分に議論が尽くされたとは言い難い。
第5に、憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成を所属議員の比率によって選任することから、反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれがある。
第6に、法案は最低投票率を定める規定を置いていない。そうすると、例えば、投票率が40%だった場合には、投票権者の20%の賛成をもって国の最高法規である憲法の改正が認められることになる。しかし、日本国憲法が憲法改正手続において国民投票を定めている趣旨や憲法改正の重要性に鑑みるなら、最低投票率あるいは最低得票率が定められるべきである。
以上のとおり、現在審議されている国民投票法案には、極めて重大な問題が数多く存する。
よって、参議院においては、慎重に審議されることを強く求める。
2007年(平成19年)4月27日
福 井 弁 護 士 会 会 長  北  川  稔

教育基本法改正法案に反対する再度の会長声明
当会は、本年6月、教育基本法改正法案(以下、改正法案という)について、その改正の必要性が明確ではないこと、さらに改正法案には「愛国心」を強制されるおそれがあることや個人の尊厳が後退する懸念があること、そして国が教育に不当に介入し統制することを可能とするおそれがあることを指摘し、改正法案を今国会で成立させることはあまりに拙速であるとして改正法案に反対する会長声明を出した。
ところが、11月16日、改正法案は衆議院において与党の単独採決により可決されて参議院に送付され、11月22日に参議院教育基本法特別委員会にて審議が開始されている。衆議院の審議においても、教育基本法の改正の必要性は全く明確にはなっていない。又、当会が指摘した改正法案のもつ上記問題点も解消されないままである。それどころか、政府が市民と政府の相互対話の場として開催したタウンミーティングにおいて、質問事項を地元教育委員会に送るなどして教育基本法改正に賛成する「やらせ」発言をさせる等という重大な問題が浮き彫りになった。この「やらせ」発言問題は、政府の意図通りに民意を曲げる可能性を示唆した問題であり、看過できない。
言うまでもなく教育基本法は、教育の憲法という性格をもつ法律であるうえ、教育のもつ重要性に鑑みるならば、その改正の必要性の有無及び改正法案の問題点につき慎重のうえにも慎重な審議がなされる必要性がある。衆議院における審議においてもいまだ改正の必要性についても明確になっておらず、むしろ民意反映という過程において看過できない問題が浮き彫りになった改正法案における与党単独採決は将来に禍根を残すものと言える。
当会は、改正法案を今国会において成立させることにつき再度反対の意を表明する。
2006(平成18)年11月30日
福 井 弁 護 士 会 会 長   山   川  均

教育基本法改正法案に反対する会長声明
1 政府は,本年4月28日,教育基本法改正法案(以下,同法案という)を国会に提出し,同 法案は,同年5月24日衆議院における教育基本法に関する特別委員会において実質審議に入った。政府は,今国会での成立を目指す方針であるとの報道がなされている。当会は,以下の理由により,同法案を今国会で成立させることについて反対である。
2 改正の必要性が明確ではない
現行の教育基本法は(以下,現行法という),教育が軍国主義的国家体制のもとで,戦争のための国民の精神総動員の手段,思想統制の手段として使われた苦い経験を踏まえて1947年(昭和22年)3月に施行された教育における「基本法」である。前文には,「(憲法の)理想の実現は,根本において教育の力にまつべき」「個人の尊厳を重んじ,真理と平和を希求する人間の育成に期する」と規定され準憲法的性格を有すると言われる。よって,そもそも現行法を改正する必要性が存在するのかどうかが吟味されなくてはならない。改正の必要性について,中央教育審議会答申によれば,我が国の教育は現在多くの課題を抱え,危機的な状況に直面しているとして,「青少年が夢や目標をもちにくくなり」「規範意識や道徳心,自立心が低下」「いじめ,不登校,中途退学,学級崩壊」「青少年による凶悪犯罪の増加の懸念」等を上げている。確かに学校現場においては種々の問題を抱えていることは事実であるが,これらの問題が現行法の弊害と言えるのかどうか具体的に全く明らかにされていない。むしろ,当会共催で毎年実施している「子どもの悩み110番」に寄せられる相談を分析すると,偏差値教育に示される過度な競争主義と教育行政による管理統制の強化により,いじめや虐待等の権利侵害に悩む子どもの実態が存在する。これらは,現行法の弊害というよりむしろ,現行法の理念が十分に学校現場で生かされていない結果とも言えるのである。教育は百年の計と言われる重要な問題である。現行法に弊害があり,真に改正が必要であるのかどうかについて,十分な調査,研究,そして国民的議論を要するが,現在の時点で,そのような経緯が全く存在しない。
3 今国会で成立させるのはあまりに拙速である。
教育基本法が準憲法的性格を有する法律にもかかわらず,同法案作成においては,「与党教育基本法に関する協議会」及び2003年(平成15年)6月に設置された「検討会」における約3年にわたる議論が,中間報告以外,全て非公開に進められてきた。この経緯は,手続的にも極めて問題である。教育基本法が今後の教育の在り方を決定する重要な法律であり,しかも,同法案が下記の通り,重大な問題を含むものであることに鑑みれば,各界各層の広範かつ慎重な意見交換と国民的議論が活発になされることが必須である。現時点ではそのような状況にはなっていない。よって,今国会で成立させようとすることはあまりに拙速であって容認できない
4 法案の問題点について
法案には種々の問題点が存在するが,本声明では,明らかに問題と考えられる点を指摘する。
第一 「愛国心」が強要されるおそれがある
改正法案は,「教育の目標」(同法案第2条)を掲げ,そのなかに,「伝統と文化を尊重し,それをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」態度を養うことを含ませている。愛国心については,個々人が持つこと自体は自由であるし,その持ち方についても,持つかどうかについても個人の自由である。つまり愛国心は人間のもつ内心であり,公教育によって上から押しつけるものではない。これを法律で強制する場合には,現行憲法及び現行教育基本法の最も基本的な価値である「個人の尊厳」への介入,「思想良心の自由」(憲法第19条)の侵害となるおそれが強い。なお,「伝統文化の尊重」「我が国と郷土を愛する」など,その定義は不明確であり,国家が一定の価値認識を押しつける危険性が存在すると言わざるを得ない。こうした危険性が杞憂ではないことについては,東京都において,教育委員会の通達に基づき,校長が教員に対し,「日の丸掲揚」「君が代斉唱」時の起立,発声を義務づけ,これに従わない教員を処分するという事態が発生し,本年3月13日には,生徒への起立,斉唱指導を義務づける通達が発せられている状況にあること,さらに,2002年(平成14年)福岡市の小学校6年生の通知票の評価項目に「国を愛する心」の文言が掲げられ,「愛国心」という内心の問題を成績評価を通じて強制しようとした状況にあることを指摘する。「愛国心」の強要のおそれが存在する改正案には賛成できない。
第二 個人の尊厳の後退が懸念される
現行法前文は,「われらは,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を希求する人間の育成を期する」とあるが,同法案は,「真理と正義を希求し,公共の精神を尊び,豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期する」に変更している。かつ,現行法1条の教育の目的から「個人の価値をたつとび」という文言を削除した。これは,同法案が「平和」を希求する人間の育成を軽視し,時の政府が考える「公共」を優先して,「個人の価値」を軽視するものではないかとの疑念を抱かせるものである。
さらに,法案は,現行法前文が「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない」としていたところを,「伝統を承継し,新しい文化の創造を目指す教育を推進する」とした。これは,時の政府が考える「伝統」を押しつける教育になるのではないかとの疑念を抱かせるものである。
第三 国が教育に不当に介入し統制することを可能とするおそれがある
法案は,「教育行政」に関し,現行法10条1項の「国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。」との文言を削除して,「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」とし(同法案第16条1項),その上で,国が「教育に関する施策を総合的に策定し,実施」するものとした(同法案16条2項)。さらに,法案は,政府及び地方公共団体に対し,教育振興基本計画の策定を義務づけている(同法案第17条)。
現行法は教育行政の責務を「諸条件の整備」に限定している(同法案10条2項)。これは,先に述べた通り,戦前における軍国主義的教育への反省にたって規定されたものであるが,同法案は,この規定の趣旨を没却し,行政の責務・権限を飛躍的に拡大させており,時の政府及び地方公共団体によって,教育内容が不当に統制される危険が極めて高い。
以上の観点から当会は,同法案を今国会で成立させることに反対する。同法案を廃案にしたうえで,あらためて,現行法案の改正の要否を含めて,各界,各層の意見交換,国民的議論を踏まえた十分かつ慎重な討議を求めるものである。
2006年(平成18年)6月 2日
福井弁護士会 会 長  山 川   均

「弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)」に反対する会長声明FATF(金融活動作業部会:マネーロンダリングやテロ資金対策を目的としてOECD加盟国等で構成されている政府間機関)は、2003年6月、マネーロンダリングやテロ資金対策を目的として、従前から対象にしていた金融機関に加えて、新たに弁護士等に対しても、不動産売買等の一定の取引に関し「疑わしい取引」を、FIU(金融情報機関)に報告する義務を課することを勧告した。これを受けて、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、2004年12月、「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、FATF勧告の完全実施を決めた。更に、2005年11月17日、FATF勧告の完全実施のための法整備の一環として、報告先であるFIU(金融情報機関)を、金融庁から警察庁へ移管することを決めた。
そして、政府は、このような警察庁に対する報告義務を課す制度、すなわち弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)の法律案を、2007年の通常国会に提出することを予定している。
しかし、このような依頼者密告制度は、市民が弁護士の守秘義務のもとで相談することができる権利を侵害し、市民と弁護士の信頼関係を損なうものである。いうまでもなく、弁護士の守秘義務は信頼関係の基礎である。弁護士が秘密を守るとの信頼があるからこそ、市民は安心して弁護士に相談することができる。自分の取引が「疑わしい」との理由で、弁護士から警察へ密告される恐れがあると、市民は安心して相談することができず、適切な助言を受けることもできなくなる。
また、このような依頼者密告制度は、弁護士の国家権力からの独立性を危うくし、弁護士制度の根幹を揺るがすものである。
弁護士は、刑事事件の弁護人など多くの場面で、警察機関とは制度的に対抗する関係にある。その弁護士が、依頼者の取引を「疑わしい」との理由で、警察に密告する義務を負うと、国家権力から独立して市民の権利を擁護するという使命を果たせなくなる。更には、市民の情報やプライバシーまでが警察に密告されることになり、警察機関による監視社会や密告社会を招来する恐れがある。
諸外国においても、各国の弁護士会はこのFATF勧告の法制化に反対している。アメリカでは、ABA(アメリカ法曹協会)が強く反対して、未だに立法化への動きは見られない。カナダでは、一旦は法制化されたが、裁判所による執行差止の仮処分が認められ、弁護士への適用は政府により撤回されている。ベルギーやポーランドでも、弁護士会が裁判所に提訴して争っている。
当会としても、マネーロンダリングやテロ資金対策の必要性を否定するものではない。しかし、このように弁護士の警察庁に対する報告義務を課す制度は、市民が弁護士の守秘義務のもとで相談することができる権利を侵害し、市民と弁護士の信頼関係を損ない、弁護士の国家権力からの独立性を危うくして、弁護士制度の根幹を揺るがすものであり、更には、警察機関による監視社会や密告社会を招来する恐れがある。
よって、当会は、弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)の法制化に強く反対するものである。
平成18年4月28日
福井弁護士会  会 長  山 川  均

共謀罪新設に反対する会長声明
「共謀罪」の新設を規定する「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という)は,一旦2004年通常国会で廃案とされたにもかかわらず,2005年特別国会に提出され,今通常国会においても与党から「修正案」が提出され,継続審議されている。
この「修正案」では,構成要件としての団体の活動にかっこ書きで制限を加えているが,あくまで団体の「活動」に着目して限定を加えたものであって,必ずしも「団体」がどこまで限定されているかは明らかでない。団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことのみをもって,団体に犯罪目的ありと解釈される可能性がある。
また,この「修正案」では,共謀に加えて,「犯罪の実行に資する行為」が要件とされているが,この概念は,犯罪の準備行為よりもはるかに広い概念であり,犯罪の実行にはさしたる影響力を持たない精神的な応援などもこれに含まれる可能性があり,共謀罪の適用場面において,ほとんど歯止めにならない。
既に当会としては,2005年10月に,「法案」にはもともと下記のような問題点を有しているので,「共謀罪」の新設に反対する旨,会長として声明を出したところである。
すなわち,そもそも「共謀罪」の新設は,「国際的な犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「条約」という)を批准するためになされるものと説明されている。そして,条約では,その適用範囲が「性質上越境的なものであり,かつ,組織的な犯罪集団が関与するもの」に限定されている。
ところが,「法案」では,長期4年以上の刑を定めたすべての犯罪について「共謀罪」を新設するため,道路交通法違反など市民生活の隅々にまで及ぶ合計600以上の犯罪類型がその対象とされる。しかも,「法案」の「共謀罪」は,越境性が要件とされていないばかりか,テロや組織犯罪との関連性が乏しい犯罪までが対象とされている。さらに,組織的な犯罪集団の関与も要件とはされていない。これでは,条約批准に伴う国内法整備という範囲を著しく超えたものと言わざるを得ない。
また,これらの結果として,たとえば市民団体がマンション建設に反対して着工現場で座りこみをしたり,労働組合が妥結するまで徹夜も辞さずに団体交渉を続けようと決めるだけで,組織的威力妨害罪や監禁罪の共謀をしたとして処罰されかねない等,市民団体や労働組合,NPO等の活動までもが処罰の対象となるおそれも否定できない。
我が国において,このように広範な共謀罪処罰を必要とする立法事実の存在は到底認められない。
さらに,我が国において,犯罪は,実行行為があって初めて成立し処罰されるのが原則とされており,実行行為のない予備が処罰されるのは極めて例外的である。まして,外形的行為の認められない意思形成段階に過ぎない共謀それ自体は処罰しないというのが我が国の刑法の大原則である。ところが,「法案」では,意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とするものであり,我が国現行刑法の大原則に真っ向から反するものと言わざるを得ない。
加えて,共謀の概念自体が曖昧であることからすれば,「思想及び良心の自由」や「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由」等憲法上規定された基本的な人権に対する重大な脅威となるものである。
そして,以上に述べた問題点は,「修正案」でもほとんど解消されてはいない。
よって,当会としては,「共謀罪」を新設する「法案」のみならず「修正案」にも強く反対し,廃案とすべきものであることを再度声明するものである。
2006(平成18)年 4月 25日
福井弁護士会会長  山川 均

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