Quantcast
Channel: himikoの護国日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1487

【転載】余命3年時事日記 2306 ら特集徳島弁護士会(中)

$
0
0
少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/09/post-72.html
選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)が平成27年6月17日に可決成立したが、その附則第11条では、「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」と規定されている。また、自由民主党は同法の成立に先立ち、「成人年齢に関する特命委員会」を開いて、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることを検討しているとの報道がなされている。
しかし、当会は、以下の理由により少年法の適用年齢を引き下げることについては強く反対するものである。
 法律の適用年齢は、それぞれの法律の立法趣旨を踏まえ、法律ごとに考えなければならない。公職選挙法と少年法では立法趣旨が全く異なる。
 選挙権年齢は、多元的な民意を的確かつ効率的に国政等に反映させるため、どのような範囲の者に選挙権を与えるのが適当かという観点から考えるべきものであり、18歳以上の国民に選挙権を付与することは、多元的な、特に若年者の民意を的確に国政等に反映する上で合理性を有するといえる。
 しかし、少年法の適用年齢に関しては、選挙権年齢と同様に考えることはできない。少年法は、少年が、人格的に発達途上で環境の影響を受けやすく教育可能性も大きいこと(可塑性)から、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」こと等を目的としているところ(少年法第1条)、現状、18歳・19歳の非行に至る少年について、人格的に発達途上でなくなったとか、環境の影響を受けなくなったとか、教育可能性がなくなったとかいった事実はない。むしろ、社会の変化(ネット依存、離婚等による不安定な家庭の増加、等々)にも伴い、非行に至る少年については特に、心理的、精神的、社会的な成熟が遅れる懸念がある。そのような少年に対しては、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分」の必要性が増大しているというべき状況なのである。家庭裁判所が取り扱う少年事件の約4割を占めるのが18歳・19歳の少年であるところ、それらの少年に対し刑事罰を科することとなれば、何ら教育的な措置が講じられず、その結果、将来にわたって犯罪が繰り返されることになりかねない。さらにいえば、刑罰法令に触れるわけではないが将来犯罪に及ぶ危険性が高い状態にある虞犯への介入は、少年法に固有のものであるところ、少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられれば、18歳・19歳の虞犯への介入が不可能となり、犯罪の芽を未然に摘む貴重な機会を失うことになる。これは、社会にとっても大きな損失になりかねない。
 歴史的にみても、旧少年法(大正11年制定)はその適用年齢を18歳未満としており、現行少年法(昭和23年制定)で20歳未満に引き上げられるまで、民法の成年年齢(20歳)とも、選挙権年齢(昭和20年の法改正までは25歳、それ以降は20歳)とも一致していなかったのであるから、選挙権年齢と少年法の適用年齢とを一致させる理由はない。
なお、凶悪な少年事件が増加しており、これに対処するために「甘い」少年法を改正しなければならないとの議論が一般には見受けられるところである。しかし、こうした議論は誤っている。
 まず、少年事件は増加しておらず、凶悪化もしていない。平成26年版犯罪白書によれば、少年による刑法犯の検挙人員は、昭和58年の31万7438人をピークとして平成7年まで減少傾向にあり、その後若干の増減を経て、平成16年からは毎年減少し続けており、平成25年は9万0413人と、昭和21年以降初めて10万人を下回った。少年10万人当たりの人口比でも、平成16年以降減少傾向にある。凶悪犯の検挙人員についても、昭和58年には殺人87人、強盗788人、強姦750人、放火389人であったのが、平成25年には殺人55人、強盗564人、強姦136人、放火137人となるなど減少傾向にある。したがって、少年事件の増加や凶悪化しているという事実はなく、そのために少年法を改正しなければならないということもない。
また、少年法による保護処分は成人に対する刑事処分に比べて「甘い」わけではない。少年事件は全件家庭裁判所に送致され、少年が非行に至った原因・背景や生活環境について、家庭裁判所や少年鑑別所の専門的知見を活かした調査や鑑別を行い、それら結果を踏まえ、継続的かつ人間的な接触に基づく教育的な働きかけを行うことによって少年の更生が図られている。そのため、非行事実だけをとらえれば、仮に成人であれば起訴猶予となったり、起訴されても執行猶予付き判決が言い渡されたりする可能性が高い事案であっても、少年事件においては、少年の資質や生活環境に深刻な問題があり教育的措置の必要性が高いと判断されれば、少年院送致となる可能性も十分あるのであり、刑事罰でないということだけをもって、保護処分を「甘い」というのは誤りである。加えて、検察官送致によって刑事罰が科される可能性も十分存する制度となっている。
 以上のとおり、選挙権年齢の引き下げと連動させて少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる理由はなく、また、若年者の成熟が遅れる傾向にある現状において、むしろ非行に至った18歳・19歳の少年に対する教育的措置の必要性は増大しているといえ、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることは、かえって社会を不安定化させることとなりかねない。 よって、当会は、少年法の適用年齢を引き下げることについては強く反対するものである。
2015(平成27)年8月27日
金沢弁護士会  会 長  西 村 依 子

安全保障法制に関する2法案に断固反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/05/post-68.html
(趣旨)
当会は,政府が第189回国会に提出した安全保障法制に関する2法案の成立に断固反対する。
(理由)
1 政府与党は,安全保障法制を整備するとの方針の下,平成26年5月から与党協議を開始させ,同年7月1日にはこれまでの政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をし,これを受けて平成27年4月27日には新たな日米防衛協力のための指針(以下「新ガイドライン」という。)に合意し,さらに、同年5月14日には,新法である「国際平和支援法」と,既存の自衛隊法や周辺事態法(重要影響事態法に名称を変更)等10の関連法律の改正を一括した「平和安全法制整備法」の2法案を閣議決定し,国会に提出した。
2 これまでにも当会は,集団的自衛権の行使を容認することが,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を謳っている憲法第9条や恒久平和主義を宣明している憲法前文に反していること,また,閣議決定という何ら制約のない手続きによって集団的自衛権の行使を容認することが政府の独断専行によって前記憲法の精神を踏みにじるに等しく,立憲主義をないがしろにするものであること等を理由に,政府与党が進めてきた安全保障法制整備の動きに対し,一貫して反対意見を表明してきた。
すなわち,平成26年5月2日には「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を,同年6月27日には「性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明」を,同年7月25日には「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める会長声明」を,さらには平成27年2月6日には「集団的自衛権行使等の閣議決定撤回と法整備中止を求める決議」を総会で採択し,それぞれ関係各機関に発出してきた。そのほか,広く一般市民にも訴えるべく,多数回に及ぶ署名活動・街頭宣伝活動を行い,さらにはシンポジウムや意見交換会等も開催してきた。
これら当会の意見表明や活動には,多数の市民が賛同しており,同様の思いをもって状況を見つめている者は,日本国中を見渡しても決して少なくないと思われる。
3 それにもかかわらず,政府は,我々の声に耳を傾けることなく,国民の代表機関である国会に諮ることもなく,今般,新ガイドラインに合意し,それを受けて上記2法案を閣議決定し,国会に提出した。
(1) しかし,まず新ガイドラインにおいては,「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」として,日本が米国とともにアセット防護,海上作戦,後方支援等を行うことが定められるなど,集団的自衛権行使の内容がかなり具体化されているが,このような集団的自衛権行使という憲法上極めて重要な問題につき,外交関係の処理という枠組みのみにおいて対外的に新たな取り決めを行うことは,立憲主義をないがしろにするものである。のみならず,その内容について国民に十分な周知がなされないままに日米の政府間でガイドラインを合意することは,いまだ国会で議論すらされていない安保法制立法を既成事実化するものであって,国民主権・民主主義に反するものであり,到底許されない。
(2) 次に,上記2法案のうち自衛隊法や武力攻撃事態法等の改正案では,これまでの自衛隊の防衛任務から「直接侵略及び間接侵略に対」する場合を削除し,新たに「存立危機事態」を追加して自衛隊が武力行使をできる範囲を集団的自衛権の行使にまで拡大している。また周辺事態法の改正案である重要影響事態法案においては,外国軍隊への後方支援に関する地理的な制約を排除した上,武器使用を認める範囲も拡大している。しかし,このような法案が成立し,実際に自衛隊による防衛活動や後方支援活動が行われれば,いずれ自衛隊員の中にも戦闘に巻き込まれて命を落とす者,他者の命を奪う者が現れることは明白である。
 政府はこれらの法案は戦争法案などではなく,抑止力により平和を構築するための法整備である旨説明する。しかし,このような法制化が他国に対する抑止力に止まる保証はどこにもなく,相手国にとってはまさにわが国が他国の戦争に加担する国となるということにほかならない。当会は,戦争は人権侵害の最たるものであるとの認識の下,戦争に巻き込まれる危険を伴う法案には,人権擁護の立場から断固反対するものである。
1 以上のとおりであるから,当会は,政府及び国会に対し,現在国会で審議中の安全保障法制に関する「国際平和支援法」と「平和安全法制整備法」の2法案の成立に断固反対する。
2015(平成27)年5月26日
金沢弁護士会  会 長  西 村 依 子

集団的自衛権行使等の閣議決定撤回と法整備中止を求める決議
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/04/post-65.html
第1 趣旨
当会は,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回,及び関連する国内法整備の中止を求める。
第2 理由
1 集団的自衛権の行使は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を謳う憲法第9条の解釈上許されない。それにもかかわらず,政府は,2014(平成26)年7月1日,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定を行った(以下「本閣議決定」という。)。 閣議決定は政府にとって何ら制約のない手続であり,政府が本閣議決定によって憲法第9条の解釈を変更し,従来政府も違憲としてきた集団的自衛権の行使を容認したことは,憲法が国家権力を拘束し人権を保障する立憲主義の理念に反するものである。
2 また,本閣議決定によれば,集団的自衛権の行使には「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」という要件が付されているため,本閣議決定による集団的自衛権の行使は憲法第9条に抵触しないという主張も存在する。しかし,同要件の内容は極めて不明確なものであり,時の政府の判断により恣意的な解釈がなされる危険性が極めて大きく,事実上限定や歯止めとして機能することは期待しえない。
3 さらに,同年12月10日に施行された特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)によって,行政機関の長は,「外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち,国民の生命及び身体の保護,領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの」を「特定秘密」に指定し,非公開とできることとなった。これでは,集団的自衛権行使の要件充足を判断する根拠が非公開とされ,私たち国民や国会が,集団的自衛権行使の是非を適切に判断できず,武力行使の法制化段階,及び法の適用段階において監視機能を働かせられなくなるおそれがある。
4 以上のとおり,本閣議決定及び特定秘密保護法の施行により,集団的自衛権の行使として他国に対する武力行使が行われる危険性が高まっている。今後,関連する法律の改正等により,本閣議決定に基づく集団的自衛権行使のための法制度が具体化されれば,当該危険性がより現実味を帯びることとなる。
5 集団的自衛権行使の要否には様々な意見があるが,当会は在野法律家の立場から,かかる状況に危機感を抱き,同年7月25日に本閣議決定の撤回を求める会長声明を,同年12月10日に特定秘密保護法の廃止を求める会長声明を発出してきたが,今般の情勢を踏まえ,更に,政府が憲法第9条の解釈変更によって集団的自衛権の行使を容認したことに強く反対すべく,総会にて決議する。
2015(平成27)年2月6日
金 沢 弁 護 士 会

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉にあたり
ISDS条項の締結に反対し交渉状況の情報公開を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/02/post-62.html
2015年2月4日
金沢弁護士会
会長 飯 森 和 彦
[趣旨]
当会は,政府が交渉に参加しているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関して,
1 同協定に含まれるISDS(国家と投資家の間の紛争解決)条項が,憲法の定める司法・立法・行政の機能と相容れず,国民主権という基本原理を脅かすものであるので,これに反対するとともに,それが不可能であれば,TPP交渉から脱退することを求める。
2 同協定への参加をめぐる交渉は,秘密交渉として行うべきではなく,国民主権原理に基づく国会の権能を踏まえ,議論に必要な情報の公開をできるようにするための交渉を求めるとともに,それが不可能であれば,TPP交渉から脱退することを求める。
[理由]
第1 ISDS条項について
1 ISDS条項とは ISDS(Investor-State Dispute Settlement)条項とは,投資家と投資受入国との間で投資紛争が発生した場合に,投資家が当該紛争を国際仲裁等を通じて解決するという規定であり,投資関連協定における中核的な規定の一つである。 現在世界各国で締結されている投資関連協定の大多数がISDS条項を含んでいることから,TPPへの参加にあたっても,他の参加国との間でISDS条項を含む投資協定が締結される可能性が高いと考えられる。
2 ISDS条項に基づく仲裁手続
ISDS条項を締結した国家間では,投資家と投資先の国家等との間に生じた紛争は,以下のような解決手段を利用できるとされる。
(1) 投資家が締結国(投資受入国)の政府ないし地方政府の投資協定違反行為によって損害が発生したと主張する場合,その紛争解決手続を国際仲裁機関(政府機関ではない私設の裁判機関)に求めることが可能である。
(2) 国際仲裁機関による仲裁手続では,ISDSの実体規定である,
① 最恵国待遇(相手国の投資家及びその投資財産に対して,第三国の投資家に与えている待遇より不利でない待遇を与えること)
② 内国民待遇(投資家を投資受入国の国民または企業と同等に扱うこと)
③ パフォーマンス要求(投資活動に対する特定措置の履行要求)の禁止
④ 直接収用及び間接収用(所有権等の移動を伴わない投資財産の利用や収益の障害となる措置)の禁止
⑤ 公正衡平待遇義務(公正かつ衡平な待遇並びに十分な保護及び保障を与える義務 等に基づいた裁定がなされる。
(3) 国際仲裁機関の裁定には強制力があり,投資受入国の裁判所での手続を経なくとも強制執行手続が可能となる。
3 ISDS条項は国家の司法権に広範な例外を設けるものである
憲法76条1項は,「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定している。そして,司法権とは,具体的な争訟(権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争)について,法を適用し,宣言することによって,これを裁定する国家の作用をいう。 ところが,ISDS条項では,2(1)で述べたように,憲法上は国家の司法権に属する国内の具体的な争訟について,国家の関与しない私的な仲裁制度によって終局的に解決することを認めているほか,2(3)で述べたように強制執行の申立権まで認めている。
日本の現行法で,国際法に基づく司法権の例外とされているのは,外国の外交官による特権の場合と,日米地位協定に基づくアメリカ軍関係者の場合(例外は一部に限られている)しかない。日本がISDS条項を含むTPPに加盟した場合,加盟国の投資家(外国企業)すべてに仲裁の申立権,日本の裁判所による承認手続を経ない強制執行申立権が認められることになり,司法権に極めて広範な例外が認められることとなる。
このような広範な例外を認めることは,「すべて司法権は」と規定した憲法76条1項の趣旨に反するものである。
4 ISDS条項は立法行為を萎縮させ国民主権を脅かしうる
2(2)で述べたとおり,ISDS条項には国際仲裁機関が規範として適用する実体規定が存在する。これらの規定はいずれも「収用」「公正衡平」といった抽象的な文言で定められており,何が投資協定違反行為にあたるのかが明確に規定されていない。
このことから,経済取引に関するルールを定める立法の必要性があっても,投資協定違反行為であるとして国際仲裁機関から多額の損害賠償命令を受けることを回避しようとするばかり,国権の最高機関である国会の立法行為,あるいは内閣・地方公共団体による規則制定行為に萎縮効果を及ぼす可能性がある。
また,条約が国内法に優先するということからも,外国投資家の利益を保護するための手続であるISDS条項により,国民主権・民主主義という憲法の基本原理が脅かされる可能性すらある。
5 小括
これまでに述べたことから,ISDS条項は,司法権,立法権及び行政権のいずれの国家作用についても,その本来の機能と相容れないものであり,ひいては国民主権という憲法の基本原理を脅かす可能性すらある内容を含むものである。そこで,当会はこれに反対し,それが不可能であれば,TPPへの参加に対し,反対する。
第2 交渉状況の情報公開について
1 TPP交渉の目的
TPPは,関税のみならず,広く非関税障壁一般の撤廃を目的とした協定であり,日本は2013年7月から交渉に参加している。
2 情報公開の必要性
非関税障壁とは,広く国家の規制,制度や慣行を意味する。
このうち,経済活動に対する国家の規制は,国民の生命・健康・財産といった国民生活全般のほか,環境の保護をも目的としてなされるものであるため,それらの規制の撤廃は,これら国民生活や環境,ひいては日本社会に多大な影響を与える可能性が極めて高い。
そのため,これら規制の撤廃を目的とするTPPについては,国民が十分な情報を得た上で,その是非につき議論がなされなければならないことは自明である。
3 秘密保持契約の存在とそれにより生じる懸念
(1) しかるに,TPP交渉では,交渉参加に先立ち,秘密保持契約を結ぶという異例の秘密交渉の方式が採られている。さらに,TPP発効後,もしくは,TPPが合意に至らなかった場合は,最後の交渉会合から4年間は,交渉原文,各国政府の提案,添付説明資料,交渉の内容に関するEメールおよび交渉の文脈の中で交換されたその他の情報を秘匿することが求められているとの報道がある。
そのため,国民や国民の代表者たる国会が,TPPに関し十分な情報を得ることも出来ず,当然,TPPやその内容の是非につき国民的議論を行うことは甚だ困難である。
(2) このような状況下では,TPPに関する条約締結に関する国会の承認(憲法61条,73条3号但書)を経るに際しても,国会に対し秘密保持条項を根拠として必要な情報を与えられず,国会は,意味内容が十分に確認できない条約に対し承認を迫られることとなる。
これは,条約に対する承認権を国会に与えている国民主権の趣旨を没却するものと言わざるを得ない。
(3) また,TPPの内容が不明確なまま承認をする場合,国会は,条約承認時において国内法の改正について十分な議論ができず,条約締結後も同様に,関連する国内法の改正を十分な審議ができまま議決することを余儀なくされる。
これは,事実上,国会による十分な議論を経ずに国内法を改正することとなるため,国会を唯一の立法機関と定めた憲法41条の趣旨にも反する。
4 小括
よって,TPP交渉は,秘密交渉として行うべきではなく,国民主権原理に基づく国会の権能を踏まえ,議論に必要な情報が公開されるべきである。それが不可能であれば,わが国はTPP交渉から脱退すべきである。

特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/12/post-61.html
(趣旨)
当会は,本日施行された特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める。
(理由)
1 法律の施行
特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)は,2013年(平成25年)12月6日に成立し,2014年(平成26年)10月14日には,特定秘密保護法施行令(以下「施行令」という。)及び特定秘密の指定及びその解除並びに適正評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(以下「運用基準」という。)が閣議決定され,本日施行日を迎えた。
2 知る権利や報道の自由を侵害するおそれがある
しかし,特定秘密保護法の内容及び施行の経緯には,以下に述べるとおり様々な問題点がある。
まず,そもそも政府が保有する情報は,本来,私たち主権者である国民の財産でもあり,その一部を「特定秘密」に指定し私たちに知り得ないものにできるということは,私たちの知る権利や報道の自由を侵害するものである。
また,運用基準においても,「特定秘密」指定の要件該当性に関して極めて不明確な判断基準を示した上で,「特定秘密として保護すべき情報を漏れなく指定すること」を遵守事項として掲げている。これでは,不明確な基準のもと,「特定秘密」指定に積極的な方向に厳格性が追求され,結果「特定秘密」に指定される範囲が不当に拡大されることは明らかであり,到底認められるものではない。
3 国民主権主義に反する
次に,特定秘密保護法が「特定秘密」を最終的に公開するための確実な法制度を設けておらず,「特定秘密」を国会へ提供するか否かの最終的な判断を政府が行うこととしている点は,国民主権原理に反するものである。
また,特定秘密保護法の抱える問題点は成立当初から縷々指摘されていたものではあるが,情報保全諮問会議が作成した施行令,運用基準の素案に対して,2万3820件ものパブリックコメントが寄せされたことからも,国民的コンセンサスがいまだ十分に形成されていないことは明らかである。それにもかかわらず,同素案はほとんど変更されることなく閣議決定され,その抱える問題点が何ら解消されないまま多くの国民の声を無視して,本日施行されてしまった。この1点を見ても,国民主権原理に反する特定秘密保護法の内実が反映されているといわざるを得ない。
4 重大な情報の秘密指定が集団的自衛権行使と結びつき恒久平和主義破壊となる危険性が極めて大きい
さらに,特定秘密保護法は,以下のとおり,集団的自衛権との関係においても深刻な問題を抱えている。
運用基準によれば,「特定秘密」と指定される情報には,「外国の政府等との交渉又は協力の方針又は内容のうち,(a)国民の生命及び身体の保護,(b)領域の保全,…(d)国際社会の平和と安全の確保(我が国及び国民の安全に重大な影響を与えるものに限る。)もの」が含まれている。これらの情報は,2014年(平成26年)7月1日の閣議決定において示された集団的自衛権行使の要件該当性(「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」)を判断する上で必要不可欠な情報である。
集団的自衛権行使は,そもそも憲法第9条の解釈上認められないのであり,限定的な行使容認ですら本来許されるものではないが,特定秘密保護法によって,限定要件該当性の判断過程が私たち国民にとって不透明なものとなれば,集団的自衛権行使に対する歯止めが効かなくなり,恒久平和主義が破壊される危険性が極めて大きくなる。
5 むすび
よって,当会は,このような問題を多く抱えている特定秘密保護法を一刻も早く廃止することを強く求める次第である。
2014年(平成26年)12月10日
金沢弁護士会 会長 飯 森 和 彦

大飯原発差止訴訟判決に対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/07/post-58.html
第1 会長声明の趣旨
当会は,基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し,積極的に判断を示した福井地方裁判所の姿勢を高く評価するとともに,政府に対しては,本判決を重く受け止め,福島原発事故の極めて重大かつ深刻な被害の重みを直視した上で,原子力発電に依存する姿勢を転換するよう強く求める。
第2 会長声明の理由
1 福井地方裁判所は,2014年(平成26年)5月21日,関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)に対し,大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)から半径250キロメートル圏内の住民の人格権に基づく大飯原発3号機及び4号機の運転差止請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。本判決は,仮処分決定を除くと,2011年(平成23年)3月の福島第一原発事故以降に言い渡された原発訴訟の判決としては初めてのものであり,極めて意義の大きい判決である。
2 従来の原子力発電所をめぐる行政訴訟及び民事訴訟において,裁判所は,行政庁の科学技術的裁量を広く認め,また,行政庁や事業者の原子力発電所の安全性についての主張・立証を緩やかに認めた上で,安全性の欠如について住民側に過度の立証負担を課したために,適切な司法判断がなされてきたとは言い難かった。
これに対し,本判決は,従来の司法判断の枠組みはとらず,原子炉規制法に基づく新規制基準での適合性審査とは別個独立に,司法は司法としての判断が可能であり,司法の役割としてその判断を行うべきことを明言した。そして,個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益の総体にあたる人格権は憲法上の権利であり,人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできず,原子力発電所の事故はこの人格権が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるところ,このような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば,原子力発電所の運転の差止めが認められるとしたものである。その上で,①基準地震動を超える地震が発生しないとは言い切れないこと,②基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得ること,③使用済み核燃料が堅固な施設によって囲まれていないことなどの事実から,大飯原発の具体的危険性を認め,運転差止めを認めたものである。
3 当会は,2012年(平成24年)5月2日,志賀原子力発電所1号機及び2号機について,福島第一原発事故の原因が解明されておらず,新しい安全基準による審査が行われていないなど,再稼働の前提条件が満たされていない現段階における拙速な再稼働に反対する旨の会長声明を発している。本判決は,基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し,高度な専門的・科学的知見を必要とする訴訟においても積極的な審理を行ったものであって,当会の上記声明と基本的認識を共通にするものであり,当会としては本判決を高く評価したい。
4 また,当会は,政府に対しては,本判決を真摯に受け止め,従来のエネルギー・原子力政策を改め,再生可能エネルギーを飛躍的に普及させるとともに,原発に依存する姿勢を転換するよう強く求めるものである。 以上
2014年(平成26年)7月25日
金沢弁護士会 会長 飯 森 和 彦


金沢弁護士会
集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/07/post-57.html
(趣旨)
当会は,政府に対し,従前の憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を一部容認した閣議決定の撤回を求めるとともに,同決定に基づく国内法整備に断固反対する。
(理由)
1 はじめに
2014(平成26)年7月1日,政府は,集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った(以下「本閣議決定」という。)。政府は,本閣議決定により,日本は,自国が武力攻撃をされていないにもかかわらず,武力行使ができる国であることを明らかにした。しかし,本閣議決定には,以下のとおり,憲法に違反する点がある。
2 平和主義の原則に反すること
平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であり,だからこそ憲法前文は平和的生存権を確認し,憲法第9条において戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を規定するなど徹底した恒久平和主義を宣明し,私たちもこれを堅持してきた。
かかる恒久平和主義の立場からすれば,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」である集団的自衛権の行使が憲法第9条に違反することは明らかである。
集団的自衛権に関するこれまでの政府見解においても,政府は,「わが国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)があること」などの自衛権発動の3要件を定め,政府答弁や内閣法制局長官答弁において,集団的自衛権の行使は憲法第9条の解釈上認められない旨一貫して表明してきたところであり,かかる政府見解は国内外を通じて確立したものとなっていた。
ところが,本閣議決定において,政府は,集団的自衛権の行使容認へと立場を変更した。本閣議決定の中で,政府は,憲法第9条との抵触問題について,集団的自衛権の行使が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」,当該武力攻撃により,「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限定される以上,違憲でない旨説明している。しかし,そもそも集団的自衛権の行使は憲法に違反するのであり,限定の有無は問題となるはずもなく,かかる説明は到底認められない。
加えて,かかる限定要件の中に用いられている文言は極めて幅の広い不確定な概念を持つものであり,時の政府の判断によって恣意的な解釈がされる危険性が極めて大きいため,将来的に,集団的自衛権の行使拡大につながるおそれがある。恒久平和主義の礎を揺るがさないためにも,本閣議決定は早急に撤回されなければならない。
3 立憲主義の理念に反すること
憲法は,国の基本的な在り方を定める最高法規であり(憲法第98条),憲法第96条は厳格な改正要件を定めている。ところが政府は,かかる憲法改正の手続を回避するばかりか,国民の中で十分に議論することすらなく,閣議決定という何ら制約のない手続きによって,憲法第9条の解釈を変更し,これまで認められないとしてきた集団的自衛権を一部とはいえ認めてしまった。
本閣議決定においては,「国際安全保障環境が変化した」ことが強調され,今回の憲法第9条の解釈変更の理由とされている。しかし,前述のとおり,今回の解釈変更は,解釈の限界を超えるものであり,かかる変更が閣議決定においてなされることは憲法の破壊であり,立憲主義国家であるわが国においては,いかなる理由があろうとも許されるはずがない。
以上より,本閣議決定による,拙速かつ強行的な憲法9条の解釈変更は,立憲主義をないがしろにするものであり,到底許されるものではない。
4 憲法尊重擁護義務に反すること
以上のとおり,憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認が憲法上許されない行為である以上,本閣議決定は,内閣総理大臣,国務大臣の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に違反する。
政府は,本閣議決定において,今後自衛隊法等の国内法整備を進めていく旨明言している。しかし,本閣議決定自体憲法に違反する以上,政府は,本閣議決定を一刻も早く撤回するべきで、本閣議決定に基づく立法活動も当然差し控えるべきである。
5 むすび
当会は,2014(平成26)年に入ってからも,5月2日に「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を,6月27日には政府・与党が閣議決定による集団的自衛権行使容認への動きを加速させたことに対し警鐘をならすべく,再度「性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明」を発表した。
こうした当会の2度にわたる反対声明をふくむ国民各層からの反対が表明されていたにも関わらず,政府は,これらを無視して本閣議決定に及んだ。そこで,当会は,政府に対して,本閣議決定の撤回を求め,同閣議決定に基づく国内法整備に断固反対するものである。
平成26年(2014年)7月25日
金沢弁護士会 会長 飯森 和彦

性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/07/post-55.html
趣 旨
当会は,政府が性急に閣議決定によってこれまでの憲法解釈を変更し,集団的自衛権行使を容認することに強く反対する。
理 由
1 集団的自衛権行使容認に関する最近の動き
安倍首相は,第186回国会における平成26年6月11日の党首討論において,集団的自衛権の行使に関して,「政府として立場を決定し,閣議決定する。」と,集団的自衛権行使容認を閣議決定においてすることを明らかにした。この間の自民党との協議によって,これまで政府解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に消極的であった公明党も,限定的とはいえ閣議決定による集団的自衛権行使容認に賛成する動きを見せ始めている。
こうした状況からすれば,早々に集団的自衛権行使を容認する閣議決定がなされる可能性は高まっている。同閣議決定後は,今秋の臨時国会において集団的自衛権行使に向けての立法活動も大きく進展することが予想され,集団的自衛権行使容認問題は非常に切迫した局面を迎えていると言わなければならない。
2 集団的自衛権行使を容認する閣議決定の憲法上の問題点
政府は,これまで自衛権発動の3要件を定め,集団的自衛権の行使は,「わが国に対する急迫、不正の侵害」に対処する場合ではないから憲法第9条の解釈上認めることはできないとの見解を示しており,政府答弁や内閣法制局長官答弁でも同見解を前提とした内容を繰り返し表明してきた。かかる政府の姿勢により,国民の間にも広く「わが国は集団的自衛権を行使しない」との信頼が形成されており,対外的にもそのような信頼が定着していると言っても過言ではなく,上記政府見解を結論において変更することは,解釈の幅を超えるものと言わざるを得ない。
加えて,集団的自衛権の行使を閣議決定によって容認することは,以下のとおり憲法上問題がある。
そもそも平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であることから,憲法前文,第9条は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という恒久平和主義,そして平和的生存権を宣明し,私たちは,これを堅持してきたのであり,集団的自衛権の行使容認は,第9条の解釈の限度を超えている。よって,時の政府の都合で憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは憲法上許されない。
また,憲法前文及び第9条に規定されている恒久平和主義,平和的生存権の保障は,憲法の基本原理であるから,政府が閣議決定によって,集団的自衛権行使を容認する方向で憲法解釈を変更することは,国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反するおそれが強く,許されない。
しかも憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法第96条は厳格な改正要件を定めている。かかる憲法改正の手続を回避し,閣議決定という何ら制約のない手続において集団的自衛権を認めてしまうことは,立憲主義をないがしろにするものと言わざるを得ない。
したがって,閣議決定によって集団的自衛権の行使を容認することは憲法上極めて問題がある。
しかも、以上の根本的な問題点は,集団的自衛権の行使につき,国会の事前承認を要するとか,「限定的に認める」としても,何ら解消されるものではない。
3 結論
当会は,平成26年5月2日に「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を発表したところであるが,今日の政府・与党の動きに警鐘を鳴らすべく,改めて,政府が性急に閣議決定によってこれまでの憲法第9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する次第である。
平成26年(2014年)6月27日
金沢弁護士会 会長  飯  森  和  彦

集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/05/post-54.html
当会は,政府による憲法解釈の変更や法律の改正・制定のみで,集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する。
理由
1 集団的自衛権行使を容認する最近の動き
平成24年(2012年)12月の衆議院議員総選挙で自由民主党が大勝し政権与党に復帰して以来,集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進んでいる。
まずは安倍首相が内閣法制局長官に集団的自衛権行使の容認論者を任命したことに始まり,続いて政府が国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案や特定秘密保護法案を国会に提出,国会における反対意見,日弁連・当会を含む各地弁護士会の反対,市民らの反対運動を押し切って成立させたことは記憶に新しい。
そして,今,安倍首相は,閣議決定により憲法9条の解釈変更を行った上で,既存の関連法を集団的自衛権の行使を前提とする方向で改正するほか,将来的には国家安全保障基本法等の制定を考えているようである。
2 集団的自衛権に関するこれまでの政府見解
政府は従来から,自衛権発動の場面を,①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること,②この攻撃を排除するため,他の適当な手段がないこと,③自衛権行使の方法が,必要最小限度の実力行使にとどまること,の各要件に該当する場合に限定してきた。
そのうえで,集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」と定義した上で,自衛権発動の①の要件を欠くことから,「我が国が,国際法上,このような集団的自衛権を有していることは,主権国家である以上,当然であるが,憲法9条の下において許容されている自衛権行使は,我が国を防衛するための必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており,集団的自衛権を行使することは,その範囲を超えるものであって,憲法上許されない」(昭和56年(1981年)5月29日政府答弁)との見解を表明し,その後の政府答弁や内閣法制局長官答弁においても,この政府見解を前提とする答弁が繰り返し表明されている。
国民の間にも広く「我が国は集団的自衛権を行使しない」との信頼が形成されており,対外的にもそのような信頼が定着していると言っても過言ではない。
3 現行憲法下で集団的自衛権の行使を容認することは許されない
(1) 集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲は許されない
上記の政府見解は,憲法上の当然の帰結である。そもそも平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であることから,憲法前文,第9条は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という恒久平和主義,そして平和的生存権を宣明している。この憲法第9条が,前記自衛権発動の3要件が具備されない状況下で,外国に対して武力攻撃がなされたということを理由とする武力行使を許容しているとは,到底考えられない。したがって,憲法第9条の文言からは,集団的自衛権の行使を容認する解釈は成り立ち得ない。
よって,時の政府の都合で憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは憲法上絶対に許されない。
(2) 集団的自衛権の行使を容認する法律の改正や立法も許されない
また,憲法前文及び憲法第9条に規定されている恒久平和主義,平和的生存権の保障は,憲法の基本原理であるから,憲法の下位規範である法律を改正あるいは制定してこれを変更しようとすることは,国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反し,憲法が最高法規であり,憲法に反する法律や政府の行為は無効であるとされていること(憲法第98条)に鑑み,許されない。
しかも憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法第96条は,改正の要件を,①各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,②国民投票でその過半数の賛成を得なければならないとして,一般の法律より格段に厳格な手続を定め,国会や国民の間で充分かつ慎重な審議が尽くされることを要求している。このような厳格な憲法改正の手続を回避し,通常の立法手続で集団的自衛権を認めてしまうことは,立憲主義をないがしろにするものと言わざるを得ない。
したがって,集団的自衛権の行使を前提とした既存法の改正や立法も許されない。
(3) 以上の根本的な問題点は,集団的自衛権の行使につき,国会の事前承認を要するとか「限定的に認める」としても,何ら解消されるものではない。
4 結論
以上の次第であるから,当会は,政府による憲法解釈の変更や法律の改正または制定のみで,集団的自衛権の行使を容認しようとする最近の政府の行為に強く反対する。
平成26年(2014年)5月2日
金沢弁護士会 会 長  飯 森  和 彦

行政書士法改正に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/03/post-50.html
第1 趣旨
当会は,行政書士法を改正して,行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することに,反対する。
第2 理由    日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出することのできる書類に係る認可等に関する審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め,そのための運動を推進してきており,それを受けて行政書士法改正案が議員立法として国会に提出される可能性がある。しかし,上記業務を行政書士の業務範囲に加えることは,以下に述べるとおり,国民の権利利益の擁護を危うくするおそれがある。よって,当会は,ここに反対の意見を述べる。
1 行政不服申立等の代理業務は行政書士業務と相容れない
そもそも,行政書士の業務は,行政に関する手続の円滑な実施に寄与し,国民の利便に資することを目的として,官公署に提出する書類等の作成及びその作成・提出を代理人として行うことを主たる内容とする。他方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度である。したがって,後者においては国民と行政庁が鋭く対立することが予想されところ,行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が,行政庁の行った処分に対しその是正を求めることは,その職務の性質と本質的に相容れないものである。
2 行政不服申立等の代理権を行政書士に付与することは国民の利益を損なう
都道府県知事による監督を受ける行政書士が,国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立等の代理人となることは,国民の権利利益の実現を危うくするおそれがある。
また,行政不服申立等の代理行為は,その後の行政訴訟の提起や同訴訟段階での結論も十分に視野に入れる必要があるところ,行政不服審査法の知識を有するとしても,訴訟実務に精通していない行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することによって,行政庁の違法・不当な行政処分を是正し国民の権利利益を擁護するはずの行政不服申立制度において,国民の側に立ってその権利利益擁護のため最善を尽くすことのできない代理人が許容されることになる。このような国民の権利利益が全うされないという事態は,厳に避けなければならない。
3 職業倫理
行政書士について定められている倫理綱領は,その内容において,当事者の利害や利益が対立する紛争事件の取扱いを前提にする弁護士倫理と異なっており,行政書士において紛争事件を取り扱うだけの職業倫理が確立しているとはいえない。
4 改正の必要性がない
行政書士に行政不服申立等の代理権を付与しなければ代理人が不足するものでもなく,立法事実を欠く。弁護士は,これまでも,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。
そして,今後も,弁護人口の増加等により,行政不服申立ての分野にも弁護士が一層関与してゆくことが確実に予想される状況にあるから,行政書士法を改正して行政書士の業務範囲を拡大する必要性はない。
よって,当会は,行政書士法を改正して,行政書士に行政不服申立等に関する代理権を付与することに反対するものである。
2014年(平成26年)3月4日
金沢弁護士会 会長  西 井   繁

「特定秘密保護法案」の衆議院での可決に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/11/post-46.html
趣旨
当会は,現在衆議院で審議中の「特定秘密の保護に関する法律案」が,同院で可決されて参議院に送付されることに,断固として反対する。
理由
1 政府は,平成25年(2013年)10月25日,「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定して国会に提出し,現在は衆議院で審議中である。
2 当会は,これまでの「秘密保全法」制定に向けての動きに対しても重大な問題があることを指摘し立法化作業に反対し,平成24年(2012年)7月26日には,「秘密保全法制に反対する会長声明」を公表しているところであるが,本法案についても,以下の理由により断固として反対するものである。
(1) 立法の必要性がないこと
そもそも,本法案を制定しようとする動きのきっかけとなったと思われる尖閣諸島沖中国船追突映像流出事件は,国家秘密の流出などとは到底言えない事案であり,本法案を制定する必要性の根拠とはなり得ない。仮に,情報漏えいから保護されるべき国家秘密があるとしても,情報漏えいに関しては国家公務員法100条(罰則同109条)や自衛隊法59条(罰則同118条)等の現行法制で十分に対処できるものであり,新たな法制を設ける必要性はない。
また,「国家安全保障会議」いわゆる日本版NSCを設置するために必要との主張もあるようだが,本法案では,適用対象者及び適用対象情報をNSC関係のものに限定しておらず,広くすべての国家公務員が扱うすべての情報を対象にしていること,また,上記のようにそもそも現行法制の下でも厳格な情報管理によって必要な秘密の保護はなし得るのであるから,本法案を特に日本版NSCを設置するために制定しなければならない理由は見出せない。
(2) 「特定秘密」の範囲が広汎かつ不明確であること
本法案は,保護の対象となる「特定秘密」の範囲を,①防衛,②外交,③特定有害活動の防止,④テロリズムの防止の各事項であって,「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要であるもの」としているが(第3条,別表),その範囲は広汎で,かつ不明確である。
すなわち,防衛に関する事項(第1号)は,自衛隊法別表第4と同様であって限定的と評価し得るものではない。外交に関する事項(第2号)は,「安全保障」という概念が抽象的に過ぎてその捉え方如何ではその範囲が無限定に広がるおそれがある。特定有害活動の防止に関する事項(第3号)は,要件が「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全への脅威」「その他の重要な情報」など抽象的であいまいな文言になっているために範囲が極めて不明確である。テロリズムの防止に関する事項(第4号)は,「テロリズム」の明確な定義が規定されていないため,「テロリズム」の捉え方如何によっては政府による防止活動の範囲を無限定に拡大させることも可能となるおそれがある。
また,上記各事項について,「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要であるもの」という要件を付加してその範囲を限定するとしても,「安全保障」という概念の危険性については上述したとおりであるし,「著しく支障を与えるおそれ」という概念も抽象的に過ぎるものである上に,この要件の存否も以下に述べるように「特定秘密」に指定する行政庁の長が自ら判断するのであって恣意的判断を制度的に排除することはできないのであるから,実質的には「特定秘密」の範囲を限定する機能を果たさないおそれは極めて大きいというべきである。
(3) 「特定秘密」の指定が行政機関の長により恣意的になされうること
本法案は,保護の対象となる「特定秘密」の指定を行う権限は,情報を保有する行政機関の長に委ねられており,かつ,公正な第三者機関による事前審査の機会もないため,政府にとって国民に知られたくない情報が,政府の恣意的運用によって「特定秘密」と指定されて隠蔽される危険がある。
すなわち,指定をできる行政機関が限定されていないため,殆ど全ての行政機関が指定をできることとなり,行政に関する情報の殆どが指定の対象となり得ることを否定できない。
しかも,指定された情報が「特定秘密」として適正な情報か否かを客観的に担保する制度が存在していないから,行政機関の長による恣意的な指定を制度的に排除することはできず,本来国民に公開されるべき情報が「特定秘密」として国民に秘匿されるおそれを防止することができない。
(4) 指定の有効期間を延長し続ければ指定が恒久化すること
本法案は,行政機関の長が「特定秘密」の指定をするときは,当該指定の日から起算して5年を超えない範囲内においてその有効期間を定めるものとして指定の有効期間の上限を5年としつつ(4条1項),同じく5年を超えない範囲で行政機関の長による延長(更新)を通算30年を超えない範囲で許容し(同2項),かつ,「指定の有効期間が通じて30年を超えることとなるときは,(中略)内閣の承認を得なければならない。」(同3項)と定めるので,30年までは指定権者である行政機関の長の恣意的な判断で,30年を超える場合でも当該行政機関の長の判断を追認する形で内閣の承認がなされてしまえば,恣意的な指定が恒久化することを容認することになってしまう。しかし,これでは事後的に国民が指定の適否を検証することが不可能となり,主権者である国民が国政に関する重要な情報を知ることができなくなり,国民の知る権利を害することとなる。
この点,新聞報道によれば,与党は,特定秘密として指定してから30年後に公開することを原則とすることに本法案を修正する意向であるようではあるが,原則とするということは例外を認めるということにほかならず,その点で不十分であるといわざるを得ないし,また,かかる修正をしたところで,指定の有効期間の更新についての客観的相当性を担保することには何ら役立たない。
(5) 適性評価制度は重大なプライバシー侵害のおそれがあること
本法案は,特定秘密の取扱いの業務を行うことのできる行政庁の職員等や行政機関との契約を行う業者の役職員(以下「特定秘密取扱業務従事者」という。)を定めるに際して,「適性評価」を実施する旨を定めている(12条)。
しかし,その対象事項には,精神疾患や飲酒節度,信用状態に関する事項等,他人に知られたくない極めて高度のプライバシー情報が多く含まれており,しかも,一定の事項については特定秘密取扱業務従事者の家族や同居人の氏名,生年月日,国籍及び住所も含まれている。
特定秘密取扱業務従事者のうちの行政機関との契約を行う業者の役職員は一般市民であり,かつ行政庁の職員等の家族や同居人の多くも一般市民であることを勘案すれば,特定秘密取扱業務従事者による同意が調査の要件とされているとしても,これらの者のプライバシー権が侵害されるおそれは極めて大きい。
(6) 処罰範囲があいまいかつ広汎で,罰則も過剰であること
本法案は,特定秘密取扱業務従事者等による特定秘密の漏えい行為を犯罪として処罰することとしているが,故意による場合だけでなく,過失によるものも処罰対象としている。しかし,過失は処罰の対象の範囲が不明確で開かれた構成要件と呼称されていることからも明らかなように,過失による漏えい行為をも処罰対象とすることは,罪刑法定主義の観点,刑罰の補充性・謙抑性の原則に照らして極めて疑問である。また,本法案は,未遂罪も処罰対象としているが,これでは処罰範囲が無限定に拡大するおそれも否定できない。さらには,その成立要件が不明確とされる「共謀」によるものや,正犯の実行行為がなくても独立して犯罪とされる「独立教唆」及び「扇動」によるものも広く処罰対象とされているが,このような処罰範囲が不明確な構成要件を設けること自体,罪刑法定主義の観点から到底看過することができない。
さらに,本法案では,一定の行為態様による特定秘密の取得行為も犯罪として処罰することとしているが,この行為態様の中には,「その他の特定秘密の保有者の管理を害する行為」が含まれている。この構成要件は,抽象的に過ぎて甚だ不明確であり,前述した特定秘密取扱業務従事者等による特定秘密の漏えい行為についての共謀,独立教唆及び扇動も処罰対象とされていることと相俟って,処罰範囲が無限定に拡大するおそれが極めて大きく,罪刑法定主義の観点からはもとより,特定秘密取扱業務従事者等への取材や情報提供の働きかけという行為も処罰対象となりうる危険性を内包していると評価せざるを得ない。
従って,こうした処罰規定の存在自体が,各種報道機関の取材活動やオンブズマン活動等の各種の市民活動に深刻な萎縮的効果をもたらすことは明白であり,報道機関の取材の自由と報道の自由及び国民の表現の自由や知る権利を侵害する危険性は甚だしい。
この点,本法案には,報道の自由への配慮規定が設けられているが,憲法上の権利として報道の自由と国民の知る権利が存することは判例法上確定しており,配慮規定を設けざるを得ないこと自体が,本法案が国民の知る権利とこれに資する報道の自由を侵害する高度の危険性を内包していることの何よりの証左である。
このように,本法案の処罰範囲はあいまいでかつ広汎にすぎ,またそれぞれの刑罰も過剰に重すぎ,国民に対する萎縮効果は甚大で,国民の自由を大幅に制約するものといわざるを得ない。
さらには,国会議員も処罰対象とされていることからすれば,国会議員による行政機関への種々の調査活動や国会議員間での自由な討論及び有権者への国政報告活動を総て刑罰をもって禁止することも可能となり,国民主権に基づく議会制民主主義そのものが危殆に瀕する可能性も否定できない。
(7) その他,本法案は,行政機関の長の判断で「特定秘密」を国会に対しても提出を拒むことができるものとするが,これでは国会の国政調査権が空洞化され,国権の最高機関性が侵されるおそれがある。
3 以上のとおり,本法案には,様々な問題点があるほか,憲法の基本原理に抵触するおそれがあるといわざるを得ない。よって,当会は本法案が立法化されることに断固として反対し,衆議院に対して本法案を可決して参議院に送付しないように強く求める。
平成25年(2013年)11月22日
金沢弁護士会 会長 西井 繁

憲法96条改正に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/08/post-43.html
第1 趣旨
当会は,憲法第96条1項について,同項の定める憲法改正の要件を緩和する方向でのいかなる改正に対しても断固反対する。
第2 理由
1 最近の憲法改正論議の状況
最近,複数の政党から,憲法改正手続きを定めた憲法第96条1項の発議要件について,「各議員の総議員の3分の2以上の賛成」と規定するところの「3分の2以上」という要件を「過半数」に緩和すべきという憲法改正議論がなされているようである。
しかし,この憲法改正論には,以下のような問題がある。
2 立憲主義の考え方を大きく後退させることになる
憲法は,国の基本的なあり方を定め,たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても,権力が濫用されるおそれがあることから,基本的人権を擁護するために,国家権力を担う者の権力濫用を防止するために縛りをかけるものである。
このような立憲主義の理念の現れとして,憲法は,発議要件として「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」というハードルを設けている。これは,憲法が,国の基本的なあり方を定める最高法規であり,慎重かつ本質的な議論が尽くされた上で改正がなされるべきであるため,憲法改正の発議案を検討する段階で,少数意見にも配慮した十分な論議が国会でなされることを絶対条件として,国民投票手続きに進むことを許したものである。
しかし,発議要件が「過半数」に緩和されると,その時々の政権与党の考え方次第で憲法改正の発議案が決せられることになりかねず,少数意見に配慮した十分な議論が国会でなされないまま国民投票が実施されることとなってしまう。
したがって,このような発議要件を緩和する方向での改正は,立憲主義の考え方を大きく後退させることになるものと言わざるを得ない。
3 硬性憲法の趣旨を後退させることになる
多くの国々では,憲法改正の要件を,法律の制定・改正よりも加重し,憲法の安定性を担保して,国家の根本秩序の不安定化による混乱をさけようとしている。
しかし,発議要件が「過半数」に緩和されると,憲法改正について,国民的な議論が深まっていない段階で,容易に憲法改正案の発議がなされることになり,憲法が安易に改正されるおそれがあり,硬性憲法の趣旨を後退させることになる。
4 憲法第96条の改正は,憲法改正の限界を超えている
憲法学説の中では,憲法改正には限界があるとの見解が多数を占めており,憲法第96条の改正も限界を超えるものと解釈されている。
なぜならば,憲法第96条は憲法自身の存立基盤にかかわるものであって,その改正は,憲法の同一性を失わせるものであり,憲法がそもそも予定するところではないからである。
したがって,憲法96条を改正すること自体許されない。
5 以上の理由により,当会は,憲法第96条1項について,同項の定める憲法改正の要件を緩和する方向でのいかなる改正に対しても断固反対する。
2013(平成25)年8月27日
金沢弁護士会 会長 西井 繁

生活保護法改正法案の再提出に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/08/post-42.html
第1 趣旨
当会は,次期国会に生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)が再提出されることに対し強く反対する。
第2 理由
1 政府は,平成25年度の通常国会において,生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)の成立を目指し,平成25年 6月4日に若干の修正が加えられたうえ,改正案は衆議院で可決された。最終的に,改正案は同年6月26日に参議院で廃案となったものの,田村憲久厚生労働大臣は,次の臨時国会に改正案を再提出する意向を示している。しかし,この改正案は,①行政窓口における違法な「水際作戦」を合法化する,②扶養義務者に対する事前通知の義務付け等により保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす,との2点において看過しがたい重大な問題が含まれている。
2 まず,現行の生活保護法24条1項は,「保護の開始の申請があったときは」と規定し,保護申請を要式行為とせず,かつ,保護の要否決定に必要な書類の添付を申請の要件としていない。また,口頭による保護申請も認められるとするのが確立した裁判例である(大阪高裁平成13年10月19日判決等)。しかしながら,改正案では,原則として生活保護の申請には,厚生労働省令で定める書類を添付した申請書を提出しなければならないとされている(改正案24条1項,2項)。これにより,申請書の不備等を理由として申請の拒絶が可能となり,これまでも問題となっていた違法な「水際作戦」を合法化しようとするものである。
すなわち,現行生活保護法では,申請書の提出や書類の添付は保護申請の要件とされず,保護申請の意思があれば,まずはこれを受け付け,実施機関側がその責任において調査権限を行使し,必要書類を収集し保護の要否判定を行うこととしているところ,改正案では,事実上,申請者自身が要保護状態であることを証明しなければならなくなる。そのためホームレス状態の人やDV被害者など,必要な書類を用意できず着の身着のままの状態で福祉事務所に申請に行く人は,申請を拒否される結果となり,また居宅があっても心身に障害を持ち書類の準備に時間のかかる人は適切な時期に保護が受けられなくなる恐れがある。
この点について,改正案でも「特別な事情」がある場合は申請書の提出や書類の提出を免除することとなっているが,「特別な事情」の有無は行政側が判断するので,申請書などの不備を理由とした申請拒否が生じる可能性は否定できず,改正案は違法な申請権侵害行為をいわば合法化するものであって,到底容認できるものでない。
3 また,改正案は,保護の実施機関に対し,保護開始の決定をしようとするときは,あらかじめ扶養義務者に対して,厚生労働省令で定める事項を通知することを義務づけている(改正案24条8項)。さらに,同項は,保護実施機関が扶養義務者に対し保護の決定等にあたって報告を求めることができる等,実施機関の調査権限を拡大している。
現行の生活保護法では扶養義務者への通知は法定のものではなかったが,それでも保護申請を行う際に,扶養義務者への通知により親族との間にあつれきが生じるのを恐れて申請を断念する場合も多かった。もし,扶養義務者への通知が義務化されれば,よりいっそう保護申請に萎縮効果が生じることは明らかである。
4 なお,改正案は,「不正受給」防止を立法趣旨の一つとするが,既に平成24年12月27日付当会「生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」で指摘したとおり,「不正受給」の割合は金額ベースで0.4%弱で推移しており,近年目立って増加している事実はなく,改正案はその前提となる立法事実を欠いており,実際には保護費の削減を意図するものであることは明らかである。
しかしながら,そもそも日本の生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割ないし3割程度と推定され,残りの7割ないし8割の人々は所得が生活保護基準以下であるにもかかわらず生活保護を受給しておらず,その数は800万人とも1000万人とも言われている。かかる現状の下で,改正案が施行されれば,さらなる捕捉率の低下により,生活苦による自殺や餓死等が増加することが強く懸念される。
5 このように,改正案は「水際作戦」の合法化に加え,生活保護申請に一層の萎縮効果を及ぼすもので立法趣旨にも実質的理由がないなど,憲法25条によって保障された生存権を侵害するものである。
以上の理由から,当会は,次期国会に改正案が再提出されることに対し強く反対するものである。以上
2013(平成25)年8月7日
金沢弁護士会 会長 西井 繁

司法修習生に対する修習費用給費制の復活を含む経済的支援を求める総会決議
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/02/post-33.html
第1 趣旨
当会は,給費制の復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期及び第66期司法修習生に対しても遡及的に適切な経済的措置が採られることを求める。
第2 理由
1 平成24年11月27日に第66期司法修習が開始され,当会には第66期司法修習生として21名が配属された。
2 司法修習生は,裁判官,検事,弁護士になるために司法修習を受けている者であり,司法修習の目的は,「高い見識と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」こととされている(司法修習生に関する規則第4条)。
3 かかる司法修習の目的を達成するべく,司法修習生は,その修習期間中,司法修習に専念する義務を負っており(裁判所法第67条2項),兼業・兼職も禁止されている。そのため,第64期司法修習生までは,公務員に準じた給与が支給される制度(給費制)が採られていた。
ところが,新第65期司法修習生から給費制は廃止され,司法修習中の必要費について国から貸し付けを受ける貸与制に移行された。
4 日本弁護士連合会は,新第65期司法修習生に対し,司法修習中の生活実態を明らかにすることを目的としてアンケートを実施した。
同アンケートの結果によれば,約28%の司法修習生が司法修習を辞退することを考えたことがあると回答し,その理由として約86%が貸与制,約78%が弁護士の就職難・経済的困窮を挙げていた。すなわち,司法試験に合格していながら,経済的理由から法曹への道をあきらめることを検討した者が3割近くもいる実態が明らかとなった。
上記アンケート結果をふまえると,今後も貸与制が継続されるようであれば,法曹志願者はより減少し,経済的理由により有為で多様な人材が法曹資格の取得を断念することになってしまう。このような結果は,幅広い教養,豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹を養成するという司法制度改革の理念に逆行するものである。
5 そこで,有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう,給費制の復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援が必要不可欠である。
また,すでに司法修習を終えた新第65期及び現在修習中の第66期司法修習生についてのみ経済的負担を負わせることがないよう,新第65期及び第66期司法修習生についても適切な経済的支援措置を採る必要がある。 以 上
平成25年2月8日
金沢弁護士会 会長 奥村 回

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1487

Trending Articles